城崎陽子

国文学者 城﨑陽子：万葉集研究と富士信仰の軌跡

城﨑陽子氏（1962年11月18日 - 2019年5月28日）は、日本の国文学を代表する学者の一人として、その名を刻みました。岡山県岡山市に生まれた城﨑氏は、國學院大學文学部文学科を卒業後、同大学院博士課程後期に進学。1990年に満期退学した後も研究を続け、2004年には「万葉集の編纂と享受の研究」で博士（文学）の学位を取得しました。國學院大學での兼任講師を経て、没するまで獨協大学特任教授として後進の指導にあたりました。

城﨑氏の研究は主に万葉集に焦点を当てており、その編纂過程や人々の受容の仕方を多角的に考察した業績は高く評価されています。単著である『万葉集の編纂と享受の研究』（おうふう、2004年）は、その集大成と言えるでしょう。同書は、万葉集成立の背景から、現代に至るまでの影響までを綿密に分析し、新たな視点を提示することで、万葉集研究に大きな貢献を果たしました。

さらに、城﨑氏は『近世国学と万葉集研究』（おうふう、2009年）、『万葉集を訓んだ人々：「万葉文化学」のこころみ』（新典社、2010年）など、数々の著作を発表。これらを通して、万葉集を単なる古典としてではなく、当時の社会や文化を反映する生きた文献として捉え直す試みを展開しました。その分かりやすい解説は、専門家のみならず、一般読者にも広く親しまれました。

学術論文の発表も盛んに行い、Ciniiなどのデータベースに多数の論文が掲載されています。その内容は多岐に渡り、万葉集に関する研究にとどまらず、近世国学や日本文学全般にわたる深い造詣を示しています。

学問への情熱に加え、城﨑氏は江戸時代から続く富士講・丸藤宮元講の副講元も務めていました。富士信仰に関する著作『富士に祈る』（ふこく出版、2017年）は、その活動の集大成であり、信仰の精神性や歴史的背景を丁寧に描き出しています。この活動からも、城﨑氏の多様な興味関心と豊かな人間性を垣間見ることができます。

城﨑陽子氏は、数々の共著にも参加しました。『上代文学への招待』（ぺりかん社、1994年、志水義夫氏共著）、『文学研究の思想：儒学、神道そして国学』（東海大学出版部、2014年、田尻祐一郎氏、西岡和彦氏、山下久夫氏、志水義夫氏共著）、『万葉集編纂構想論』（笠間書院、2014年、市瀬雅之氏、村瀬憲夫氏共著）、『萬葉写本学入門』（笠間書院、2016年、小川靖彦氏編、共同執筆）、『くずし字で読む百人一首一夕話』（武蔵野書院、2018年、大内瑞恵氏、佐藤瞳氏、渡部修氏共著）など、幅広い分野の研究者との共同作業を通して、学問の発展に貢献しました。

2019年5月28日、城﨑陽子氏は逝去されましたが、その研究業績は、後世の研究者たちに多大な影響を与え続け、日本の国文学の発展に大きく貢献したことは間違いありません。万葉集研究のみならず、近世国学、富士信仰など、多岐にわたる研究を通して、私たちに貴重な知見を残してくれました。城﨑氏の功績は、これからも高く評価され続けるでしょう。

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