基部系統

系統樹における基部系統：その意味と正しい理解

系統樹において、基部系統とは、ある分類群の中で最も初期に分岐した系統を指します。この用語は、進化の歴史をたどる上で重要な意味を持ちますが、その解釈には注意が必要です。

基部系統の定義と誤解

しばしば「最も初期に分岐した系統」と説明されますが、分岐学の厳密な定義とは異なります。有根系統樹では、基部に位置する枝は複数存在し、それらの枝はすべて同等です。そのため、単一のクレードを基部系統として特定することは、必ずしも正確ではありません。あるクレードを基部系統と呼ぶなら、その姉妹群は「派生的なクレード」となりますが、種の数が多い方が派生的というわけではなく、これは系統関係の本質ではありません。

系統樹の各枝に分類群の数が異なっていても、それはデータの集め方や、絶滅種の有無によるもので、系統分類学において各クレードに重み付けをする必要はありません。

基部系統の適切な表現

「基部系統」という用語の代わりに、「基部節」「基部分岐」「基部単系統群」「基部分類群」といったより正確な表現を用いることが推奨されます。「基部分類群」は、仮説上の祖先種であり、現生種ではありません。しかし、分岐学では祖先を特定できないため、これらを用いた議論は限定的な意味しか持ちません。

「基部」という用語は、系統関係の議論において、現状よりも少ない頻度で使用されるべきです。

「原始的」という誤解

基部系統は「原始的」と表現されることがありますが、これは誤解です。基部系統は、必ずしも古い形質を保持しているとは限りません。系統樹は、共通祖先からの進化を示すものであり、一方の群から他方が進化したことを直接示すものではありません。ラン科の例のように、基部系統の花の形態が、そのクレードの共通祖先とは大きく異なる場合もあります。

基部系統の具体例

いくつかの分類群における基部系統の例を挙げましょう。

コケ植物: 現生陸上植物の最基部系統と考えられており、「基部陸上植物」と呼ばれます。形態形質の解析では側系統群とされた時期もありましたが、分子系統解析により単系統群とする結果も得られています。
基部被子植物 (ANA): 被子植物の初期に最も分岐した群とその近縁種からなる側系統群です。アンボレラなどが含まれます。
基部真正双子葉類: 真正双子葉類の中で基部に位置するクレードです。キンポウゲ科、ハス科、ヤマグルマ科などが含まれます。
無翅昆虫類: 六脚類の中で、翅を持たないカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目の5群は基部系統と考えられ、原始的な形質を保持しているとされます。

まとめ

基部系統は進化研究において重要な概念ですが、その用語の正確な理解と適切な使用が求められます。「原始的」といった誤解を招く表現を避け、より正確な表現を用いることで、系統関係に関する議論の精度を高めることができます。系統樹の各枝は同等であり、単純に「最も古い」という視点で解釈すべきではないことを、常に念頭に置いておくべきです。様々な研究データが蓄積されることで、系統樹の形状や解釈は今後変化していく可能性があることも理解しておく必要があります。

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