堀越捜査一課長殿

堀越捜査一課長殿

『堀越捜査一課長殿』は、著者江戸川乱歩が1956年に発表した短編小説であり、独特な書簡体の形式が魅力です。この作品は、ある強盗事件の背後に潜む真実を解き明かすために、手紙を媒介に捜査官の思考を追う形式で物語が進行します。

登場人物

物語を彩るのは数人の重要なキャラクターたちです。最初に紹介されるのが堀越貞三郎、彼は捜査一課の課長として、北園壮助からの手紙を受け取ります。堀越は以前、渋谷署の署長を務めており、豊富な経験を持つ捜査官です。

次に登場するのが北園壮助です。彼は大阪の福寿相互銀行の専務取締役で、かつては推理小説家として名を馳せていました。北園は渋谷の高級アパート「松涛荘」に住んでいた過去を懐かしみながら、堀越に手紙を送ります。

また、大江幸吉という人物も物語に深く関わってきます。彼は北園の友人であり、推理作家としての経験を持つ雑誌編集者です。大江は、渋谷時代に堀越に近い存在であり、深い友情で結ばれています。ホステスの弓子や、『関西経済通信』の編集長である花崎正敏、さらに東和銀行の庶務部長である渡辺憲一というキャラクターも登場し、物語に多面的な視点を提供します。

物語のあらすじ

物語は、堀越が課長室で北園から届いた奇妙な配達証明付きの封書を開ける場面から始まります。北園は、迷宮入りしてしまった東和銀行渋谷支店の強盗事件に関して、真実を語ると約束しています。そこには、事件の背後に潜む隠されたストーリーが待ち受けていました。

東和銀行での現金輸送時に起こった強盗事件は、北園の過去と関係が深いものでした。それは、彼の渋谷時代に住んでいた「松涛荘」の隣人、大江幸吉が関与しているという shocking な事実が明らかになります。大江は現金を入れた麻袋を自室に持ち込み、その後行方をくらませてしまったのです。

手紙を通して堀越は、大江に関する記憶や彼の人柄に考えを巡らせます。北園の手紙の内容は、堀越にとって難解でありながらも興味深いものです。彼は過去の記憶と現在の謎を重ね合わせ、捜査を進めていきます。

出版情報

この作品は、1975年に『化人幻戯』の一部として収録され、その後も数度にわたり再出版されています。1984年には創元推理文庫の『日本探偵小説全集2 江戸川乱歩集』に含まれ、1987年には春陽文庫の『ぺてん師と空気男』に再収録。また、1989年には講談社からも独立した形で『江戸川乱歩推理文庫28・堀越捜査一課長殿』として出版されました。

本作は江戸川乱歩の独特の世界観を感じさせる作品であり、謎に満ちた展開が読者を引きつけてやみません。

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