堤正誼

堤正誼：幕末から明治を駆け抜けた生涯

堤正誼（つつみ まさよし、1834-1921）は、激動の幕末から明治時代にかけて活躍した、福井藩出身の稀代の官僚にして政治家です。宮内省において要職を歴任し、貴族院議員、男爵に叙せられ、日本の近代化に貢献しました。その生涯は、日本の歴史的転換期を象徴するものであり、多様な才能と複雑な人間関係によって彩られています。

福井藩士から宮内省へ

1834年、福井藩士・堤甚平の長男として生まれた正誼は、幼名市五郎。安政4年、橋本左内らと共に江戸へ赴き、幕府の海軍教授所で航海術を修得しました。幕末期には主に軍事関係の職務に従事し、明治維新後には福井藩権大参事を務めました。

明治4年（1871年）、正誼は宮内省に移籍。侍従に就任すると、その後のキャリアは目覚ましいものがありました。侍従番長、宮内少丞、宮内権大丞、内匠課長、調度課長、宮内大書記官兼皇太后宮亮など要職を歴任し、宮内省の運営に大きく貢献しました。特に、出納課長、庶務課長、調度局長兼大膳亮といった、省庁運営に不可欠な部門を幅広く経験したことは、彼の官僚としての卓越した能力を示しています。

内匠頭としての功績

1887年9月、正誼は内匠頭に就任。これは宮内省における重要な役職であり、宮廷の建築や造作、調度品の管理などを担っていました。内匠頭としての在任期間は明治20年から明治37年までと長く、その間に手がけた作品は数知れません。宮廷建築や調度品の整備を通して、日本の近代化に貢献した彼の功績は計り知れません。

さらに、内匠頭としての職務に加え、兼調度局長、兼御料局長官、兼閑院宮別当といった要職を歴任し、宮内省における彼の影響力は絶大でした。1897年12月には宮内次官に就任し、その後も内匠頭、宮中顧問官、兼東宮御所造営局長を歴任しました。

貴族院議員と晩年

1900年5月、正誼は男爵に叙爵されました。1911年7月には貴族院男爵議員に選出され、1916年11月まで議員として活動しました。貴族院議員としての活動を通して、日本の政治にも影響を与えたことは間違いありません。

1921年7月19日、88歳で東京にて死去。その生涯は、福井藩士から宮内省の重鎮、貴族院議員へと至る、波瀾万丈なものでした。彼の墓所は文京区の吉祥寺にあります。

多彩な親族関係

正誼の家族もまた、日本の近代化に貢献した人物が多くを占めています。妻の常子は福井藩士・市橋環蔵の長女。長男の寿は、妻が金沢藩士・加藤恒の娘であり、その子には堤正之、堤新三（三井物産副社長、極東石油工業社長）がいます。娘たちは、鉄道技監、三菱の理事、海軍軍人など、各界の著名人と結婚しています。その親族関係からも、正誼がいかに日本のエリート層と深く関わっていたかが分かります。孫である堤正之は、正誼の死後、家督を相続しています。堤新三は、海軍主計少佐としてビルマに派遣され、その経験はのちに著書「鬼哭啾啾―ビルマ派遣海軍深見部隊全滅の記」として出版されています。

まとめ

堤正誼は、幕末から明治にかけて、福井藩士、宮内官僚、政治家として活躍した人物です。その生涯は、日本の近代化を象徴するものであり、その功績は今もなお高く評価されています。多様な才能と、日本のエリート層との広範な人脈、そして複雑な家族関係を有した彼の生涯は、日本の近代史を理解する上で貴重な資料となります。

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