報時球

報時球（タイムボール）とは

報時球（ほうじきゅう）、またはタイムボール（英語: time ball）とは、かつて正確な時刻を知らせるために使われた装置です。主に航海士が、船上で使用するマリンクロノメーター（精密な航海用時計）の時刻を調整するために用いられました。仕組みは、決められた時刻になると、塗装された木製または金属製の大きなボールを、高い場所から落下させるというものです。

報時球の役割

海上で正確な経度を測定するには、正確な時刻を示すクロノメーターと、星の位置を観測する天測航法が不可欠でした。報時球は、その正確な時刻の基準となるものでした。

しかし、水晶式電子時計や電波時計の登場によって、その役割は終わりを迎えました。現在では、歴史的な観光資源として、または特別なイベントで用いられることがあります。

報時球の歴史

古代の時刻表示

小さなボールを落下させて時刻を知らせる方法は、古くから存在していました。古代ギリシャの都市ガザでは、広場に同様の仕組みを持つ時計が設置されていた記録があります。これらの初期の時計は、太陽や星の観測に基づいて時刻を調整していました。

電信技術と報時球

1850年頃に電信が導入されると、報時球は天文台などから離れた場所に設置され、遠隔操作されるようになりました。これにより、より広い範囲で正確な時刻情報を提供できるようになりました。

イギリスでの導入

1829年、イギリス海軍のロバート・ウォーコップ艦長によって、ポーツマスに初の報時球が設置されました。その後、リバプールをはじめとする主要な港にも設置され、海運界で広く利用されるようになりました。

グリニッジ天文台とアメリカでの普及

1833年には、ロンドンのグリニッジ天文台にも報時球が設置され、毎日午後1時に落下していました。ウォーコップの計画は、アメリカやフランスの大使にも伝えられ、1845年にはワシントンD.C.にアメリカ初の報時球が設置されました。

日本での報時球

日本では、1903年に横浜と神戸で報時球が運用を開始し、その後、門司、長崎、大阪にも設置されました。報時球は通常、午後1時に落とされていました（アメリカでは正午）。

無線通信の登場と報時球の衰退

1895年にグリエルモ・マルコーニが無線通信を実用化すると、報時球は徐々にその役割を終え、廃止されていきました。しかし、第二次世界大戦前後までは、現役のシステムとして利用されていたと考えられます。

現代の報時球

現代では、ニューヨークのタイムズスクエアで、大晦日のカウントダウンイベントに使用されるタイムズスクエア・ボールが、報時球のコンセプトを現代に受け継いでいます。このボールは、1分かけてポールを落下し、新年を迎える瞬間を示すというものです。

世界各地の報時球

現在、世界には60を超える報時球が残っていますが、その多くはすでに機能していません。

現存する報時球の例

オーストラリア：ブリスベン、フリーマントル、シドニー、ニューキャッスル、セマフォア、ウィリアムズタウンなど
カナダ：ケベックシティ
ニュージーランド：ウェリントン、ポート・チャーマーズ、リトルトン、ワンガヌイ、ティマルー、オークランドなど
ポーランド：グダニスク
南アフリカ：ケープタウン
スペイン：サン・フェルナンド、マドリード
イギリス：ディール、マーゲート、グリニッジ、リーズ、キングストン・アポン・ハル、ブライトン、エジンバラ
アメリカ合衆国：ワシントンD.C.、ニューヨーク、プリマス

ニュージーランドの報時球

ニュージーランドでは、1864年3月にウェリントンで最初の報時球が設置され、その後、ポート・チャーマーズ、リトルトン、ワンガヌイなどにも広がりました。


ウェリントン：1864年に設置されたが、1888年に別の場所に移設され、1909年に焼失。その後、光学式の時間信号に切り替えられた。
ポート・チャーマーズ：1867年に設置され、一時廃止されたが、後に再開。1970年に撤去されたが、2020年に復元・再開された。
* リトルトン：1876年に設置されたが、2010年と2011年の地震で被害を受け、一度解体されたが、2018年に復元・再開された。

報時球の仕組み

報時球は、通常、午後1時に落下しました（米国では正午）。落下する数分前に途中まで引き上げられ、その後、完全に引き上げられました。報時は、ボールが底に達したときではなく、落下し始めたときをもって行いました。

まとめ

報時球は、かつて航海において重要な役割を果たした時刻を知らせる装置でした。その多くは、現代の技術によって役目を終えましたが、その歴史的な価値は今もなお失われていません。世界各地に残る報時球は、かつての航海の歴史を物語る貴重な遺産です。

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