クロノメーター

クロノメーターの概要

クロノメーター（英: chronometer）とは、主に船舶で使用される高精度の携帯用ぜんまい時計です。この時計は、海の揺れや温度の変化に左右されず、安定した時間を刻むことが特長です。具体的には、デテント式脱進機が使われ、天文台での精度検定に合格した機械式時計を指します。その名前は、ギリシャ神話の時間の神クロノスに由来しています。

クロノメーターの歴史的背景

大航海時代と経度測定の必要性

クロノメーターの開発は、大航海時代にさかのぼります。航海が盛んになり、正確な位置を把握するために精密な緯度や経度の測定法が求められるようになりました。緯度の測定は比較的容易でしたが、経度の正確な測定は困難でした。この課題を解決するために、1714年、イギリス議会が高精度で経度を測定できる方法に対して懸賞金を出すことを決定しました。18世紀初頭、最も高精度な時計であった振り子時計は、海上では揺れの影響で不適切であったため、マリン・クロノメーターが必要でした。

ハリソンとクロノメーターの発展

1735年に、イギリスの木工職人であり時計職人のジョン・ハリソンは、船舶上での動きや温度の変化に対応した「クロノメーターH1」を製作しました。さらに1759年には、8.1秒の誤差という驚異的な精度を持つ「クロノメーターH4」を開発しました。ハリソンの時計は、ジャマイカまでの81日間の航行中にほとんど時間が遅れなかったことから、高精度な時計として評価されました。

デテント・クロノメーターの登場

ハリソンによってクロノメーターの有用性が示された後、より安価に大量生産する必要がありました。フランスのピエール・ル・ロワがデテント式脱進機を発明したことで、さらに多くのデテント式クロノメーターが製造されるようになりました。18世紀末には、トーマス・アーンショウやジョン・アーノルドがスプリング・デテント式脱進機を開発し、より簡素な構造で高い精度を実現することに成功しました。

ボード・クロノメーターと現代の動向

デテント式脱進機を備えたマリン・クロノメーターとは異なり、ボード・クロノメーターは機械式時計の一般的なタイプとして使用されています。これらの時計は精度が増し、同様の用途に使用されるようになりました。また、クォーツ式クロノメーターの製造も始まっています。

天文台による精度検定

マリン・クロノメーターの製造が盛んになった当時、多くの天文台で精度コンクールが開催され、時計師たちはその名声を争いました。工業製品が主流になるにつれて、各国の公的機関による精度の検定が行われるようになり、特にスイスのC.O.S.C.（スイス時計歩度公認検定局）により、クロノメーターの基準が設けられました。

日本におけるクロノメーターの発展

日本では1960年以前に、時計メーカーによってクロノメーターの名が不正に用いられていました。しかし、1960年にセイコー社が独自の検定制度を設け、自社製品として「グランドセイコー」を発売しました。その後、シチズンが追随し、両社は国内の検定協会の設立に貢献しました。その後、クォーツ時計の登場により検定数が減少しましたが、2024年には「シャトーヌーベル・クロノメーター」がブザンソン天文台の検定を通過した製品を販売する予定です。

まとめ

クロノメーターは、航海や精度測定の歴史と密接に結びついており、現代においても多くの時計や製品にその名が使われ続けています。時計の精度を示す重要な指標として、多様な技術革新に支えられて今後も発展していくことでしょう。

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