塩谷宕陰

塩谷宕陰：江戸時代後期の儒[[学者]]とその多大な影響

塩谷宕陰（しおのや とういん、1809年5月30日 - 1867年9月25日）は、江戸時代後期の著名な儒[[学者]]です。江戸の愛宕山下に生まれ、諱を世弘、通称を甲蔵、字を毅侯としました。九里香園、悔山、晩薫廬といった雅号も用いています。

宕陰は、若き日に昌平黌で学び、松崎慊堂に師事するなど、当時の著名な学者たちから薫陶を受けました。その後、遠江掛川藩主の太田家に仕え、嘉永6年（1853年）のペリー来航を機に、海防に関する政策提言を行い、その見識を示しました。その内容は『海防論』としてまとめられ、後の日本の国防政策に少なからず影響を与えたと考えられています。

文久2年（1862年）には、昌平黌の教授に任命され、歴史編纂にも携わりました。教育者として、後進の育成にも尽力したことが伺えます。また、河井継之助が山田方谷を訪ねる際に、宕陰の紹介状を持参したという逸話も残っており、当時の知識人社会における宕陰の地位の高さがうかがえます。

宕陰の学問的業績は、没後も高く評価されています。明治35年（1902年）、文部省は当時の中学校の教育指導要綱を発表し、菊池大麓文部大臣は、漢文教科の副読本として『宕陰存稿』を指定しました。このことは、宕陰の著作が、明治時代の教育にまで影響を与えたことを示す重要な証左と言えるでしょう。

『宕陰存稿』以外にも、没後には多くの著作が刊行されました。『大統歌俗解』『大統歌』『大統歌訓蒙』『大統歌：小学習字』『大統歌註解』『昭代記』『茗黌廿勝小記』『宕陰賸稿』『丕揚録』など、その内容は多岐に渡り、漢学、歴史、教育、書道など幅広い分野にわたる知見を示しています。これらの著作は、後世の研究者や教育者にとって貴重な史料として、現在も活用されています。これらの著作の刊行には、山城屋政吉、松井栄助、江藤喜兵衛、柳川梅次郎、大谷仁兵衛、塩谷時敏、高美書店、谷門精舎、近藤出版社といった多くの関係者が関わっており、宕陰の学問的影響力の広さを物語っています。さらに、写本として残されている『阿芙蓉彙聞』は、塩谷世弘名義で執筆されたものであり、宕陰の多様な活動の一端を示す貴重な資料です。

塩谷家には、宕陰の他に漢文学者である甥の塩谷青山、そして青山の息子で支那学者である塩谷温といった著名な人物を輩出しており、学問を重んじる家風であったことがうかがえます。宕陰自身も大正4年（1915年）に正五位を追贈されており、その功績は国家レベルでも高く評価されています。

塩谷宕陰は、教育者、歴史家、そして漢学者として、多方面で活躍した人物でした。彼の業績は、単なる学問的成果にとどまらず、明治以降の日本の教育や文化にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。彼の生涯と業績を学ぶことは、近代日本の形成過程を理解する上で非常に重要です。

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