塩釜事件

塩釜事件（しおがまじけん）

1949年（昭和24年）7月、宮城県塩竈市で発生した、在日本朝鮮人連盟（略称：朝連）と在日本朝鮮人居留民団（略称：民団）という二つの在日コリアン団体間の激しい対立に起因する一連の騒動を指します。この事件は、第二次世界大戦後の朝鮮半島における南北分断という国際情勢が、日本国内の在日コリアン社会に直接的な影響を与え、深刻な衝突を引き起こした事例として知られています。

事件の背景

1948年、朝鮮半島には大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国という二つの国家が相次いで建国され、南北間の分断が固定化されました。この状況は、日本に暮らす在日コリアン社会にも大きな影響を与え、それぞれの祖国への支持を巡ってコミュニティ内部に深い亀裂を生じさせました。北朝鮮を支持する立場からは朝連が、韓国を支持する立場からは民団がそれぞれ組織され、両団体は全国各地で激しく対立するようになります。

宮城県においてもこの構図が当てはまり、特に1949年3月に民団の支部が結成されたことを契機に、朝連側からの反発が強まり、様々な小競り合いやトラブルが頻発していました。このような緊迫した状況下で、二つの刑事事件が立て続けに発生したことが、収拾のつかない対立へと発展する直接的な引き金となります。

発端となった事件

1949年7月8日、塩釜事件の発端となる二つの重大な出来事が発生しました。

1. 朝連構成員致死事件
民団宮城県本部団長と朝連の構成員との間で口論から発展した喧嘩となり、結果的に朝連の構成員が死亡に至った事件です。
2. 民団県本部外交部長宅襲撃事件
前項の事件と同一の日、朝連の構成員らが民団宮城県本部外交部長の自宅に押し入り、この外交部長に傷害を負わせた事件です。

これらの事件により、両団体の間の敵対感情は一気に高まり、地域社会の緊張は極度に達しました。

事件の概要と推移

発端となった事件から数日後、事態はさらにエスカレートします。

7月14日：多賀城でのトラブルと警察の介入
宮城郡多賀城村（現在の多賀城市）で、民団の構成員が電柱にビラを貼っていたところ、朝連の構成員がこれを見つけて剥がそうとしました。これに反発した民団側は朝連構成員を取り囲み、そのまま民団塩竈支部に連行して詫び状を書くよう強要します。朝連は塩竈市警察に救援を求め、警察官が現場に急行。当初は事態が収まるかに見え、警察は警告に留めて引き上げましたが、同日夜に再び朝連から救援要請があり、警察は再度出動して朝連構成員を保護しました。この警察の対応に対し、朝連側は強い不満を表明し、警察と在日コリアン住民との間にも軋轢が生じ、一触即発の状態となります。塩竈市警察は事態の拡大を防ぐため、国家地方警察宮城県本部に連絡し、塩竈市につながる主要道路の封鎖を実施しました。

7月15日：仙台・塩竈での集会
翌日、民団側は仙台市内で朝連を非難する集会を開催します。一方、朝連も塩竈市内で集会を開き、仙台から戻ってくる民団関係者を待ち構える動きを見せました。警察は両者の衝突を警戒し、厳戒態勢を敷きます。警察の警備により大規模な衝突は避けられましたが、散発的な小競り合いが発生するなど、依然として予断を許さない状況が続きました。

7月17日：進駐軍の介入と代表者逮捕
朝連が警察への不満などを訴える無許可の街頭演説を行ったことに対し、当時の占領行政を担っていた進駐軍の宮城地方軍政部が介入を命じました。これにより、朝連の代表者4名が逮捕されます。この逮捕は朝連系の在日朝鮮人の強い反発を招き、抗議のために多数の人間が警察署に押しかけるなど、新たな騒ぎを引き起こしました。

7月19日：同日同時刻、同一場所での集会
事態収拾の糸口が見えない中、民団と朝連の双方が、よりによって同じ日の同じ時間（午後6時）に同じ場所（海岸前広場）で集会を開く計画を立てます。塩竈市警察は両団体に対し、場所や時間を変更するよう強く求めましたが、双方ともこれを拒否しました。警察は衝突の危険性を認識しつつも、最終的には厳重な警告付きで集会を許可せざるを得なくなりました。当日は多数の警察官が動員され、厳重な警備体制が敷かれる中で集会が行われました。集会では双方が互いを激しく罵倒し合うなど険悪な雰囲気に包まれましたが、警察の徹底した警備により、幸いにも大規模な物理的衝突には至らず、大きな混乱なく集会は終了しました。

一連の塩釜事件は、南北分断という国際的な対立構造が、日本国内の特定地域においていかに深刻な影響を及ぼし、在日コリアン社会内部の分裂や地域社会との摩擦、さらには占領下の日本の警察組織の対応の難しさを露呈した出来事でした。

関連項目
在日本朝鮮人連盟
在日本朝鮮人居留民団
塩竈市警察
国家地方警察宮城県本部

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