増田孝

増田 孝（ますだ たかし）

1948年（昭和23年）8月25日、千葉県千葉市に生まれる。日本の古文書学および書跡史学の分野における著名な研究者である。愛知東邦大学の客員教授を務めるほか、過去には愛知文教大学の学長も歴任した。専門は日本書跡史と日本文化史で、長年の研究に基づき、博士（文学）の学位を取得している。

経歴

増田孝氏は、1971年（昭和46年）に東京教育大学（現在の筑波大学に連なる教育機関）教育学部芸術学科を卒業した。教育者としてのキャリアは、千葉県立佐倉高等学校の教諭として始まる。その後、高等教育の場に移り、愛知文教大学の教授に就任した。同学では要職を歴任し、2007年11月からは副学長を務める。前任の学長の急逝に伴い、2010年2月1日から2014年1月31日までの期間、学長として大学運営の重責を担った。学長退任後、2014年2月からは、系列校である愛知文教女子短期大学の副学長を務めていた富田健弘氏（後に両大学の学長を兼務）が後任となった。

愛知文教大学を離れた後、およそ1年の期間を経て、再び愛知県内の高等教育機関で教鞭をとることとなる。2015年4月からは愛知東邦大学に移籍し、教授および学長補佐として勤務した。2020年時点では、同学の客員教授として籍を置いており、特定の学部に所属しない立場で研究・教育活動を続けている。

研究活動と人物

増田氏は、専門分野である日本書跡史や日本文化史に関する深い知識を活かし、多くの著書を世に送り出している。研究活動だけでなく、その専門知識は広く社会に知られており、テレビ東京系列の長寿番組「開運!なんでも鑑定団」にはセミレギュラーとして出演し、古文書や書に関する鑑定などで活躍を見せている。

教育者としての一面も特筆される。大学での講義や演習においては、自身の蒐集した貴重な古文書を積極的に教材として活用することで、学生に実物に触れる機会を提供した。その人柄は温和として知られ、学生とのやり取りにおいても常に紳士的な態度を崩さなかったという。

講義のスタイルにも特徴があった。内容の性質上、評価方法は一般的な筆記試験ではなく、学生のノート提出を重視するスタイルであった。これは、講義中に黒板に一文字ずつ丁寧に書き記される膨大な量の情報に対して、学生が真摯に向き合った成果を評価するためであったと考えられている。講義では、古文書に記された文字そのものだけでなく、それを書いた人物がどのような背景を持つ人物であったか、なぜその文書が作成される必要があったのか、さらには押印の意味、そして当時の時代背景に至るまで、多角的な視点から極めて丁寧に解説を行った。これにより、学生は単なる文字の解読にとどまらず、古文書が生まれた歴史的、文化的背景を深く理解することができた。

研究活動の一環として、名古屋大学に設けられた研究施設においては、古文書に使用されている和紙の年代特定といった、科学的な手法を用いた分析にも取り組んでいる。

また、学生との交流も大切にした人物である。愛知文教大学の同窓会（国際文化学部が設置されていた頃）が開催された折には、積極的に参加し、卒業生たちと昔話に花を咲かせたり、自身の近況を伝えたりするなど、教え子たちとの繋がりを大切にする姿勢が見られた。

主な著書

『光悦の手紙』
『茶人の書』
『日本近世書跡成立史の研究』
『書の真贋を推理する』
* 『古文書―手紙の読み方』

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