声東撃西

声東撃西（せいとうげきせい）

声東撃西は、兵法三十六計の第六計に数えられる戦術であり、「東に声して西を撃つ」という意味を持ちます。これは、敵を欺き、こちらの意図を悟らせないようにするための陽動作戦の一種です。

本文の解釈

敵の士気が乱れ、正常な判断や行動ができない状態は、「坤下兌上（こんげだじょう）」、すなわち澤地萃（たくちすい）の卦の象徴とされます。澤地萃とは、澤が地の上にある状態で、決壊が近い様子を表します。この状況を利用し、敵が統制を失った隙を突いて勝利を収めるのが、声東撃西の基本的な考え方です。

具体的な戦術

この戦術では、まず東側で騒ぎを起こし、敵の注意をそちらに引きつけます。敵は、東側からの攻撃に備えようとしますが、実際には西側から本命の攻撃を仕掛けます。敵は予想外の方向からの攻撃に対応できず、混乱に陥り、防御が手薄になります。その隙を逃さず、一気に攻め込むことで勝利を掴みます。

敵に弱小であるかのように見せかけ、油断させて誘い出すことも、声東撃西の重要な要素です。そして、待ち構えている堅強な兵力で敵を迎え撃ちます。例えば、西に領土を拡大したい場合、まずは東に進むそぶりを見せることで、敵の警戒心をそらし、西への侵攻を容易にします。

歴史的な事例

後漢末期、朱儁（しゅしゅん）が南陽郡の宛（えん）で黄巾軍を包囲した際、声東撃西の計が用いられました。朱儁は、城の西南で太鼓を鳴らし、黄巾軍を誘い出す一方で、精鋭部隊5千を率いて城の東北を奇襲し、混乱に乗じて城内に侵入しました。この作戦により、朱儁は黄巾軍を打ち破ることに成功しました。

この事例からわかるように、声東撃西の計は、敵を翻弄し、相手の防御を崩す上で非常に有効な戦術です。

注意点

ただし、声東撃西の計は、常に有効というわけではありません。敵が十分に統率されており、冷静な判断力を持っている場合、この戦術は通用しません。呉楚七国の乱の際、漢の周亜夫（しゅうあふ）は、籠城戦を選択し、敵の動きに惑わされませんでした。呉軍が東南を攻撃する姿勢を見せても、周亜夫は西北の守りを固めました。結果、呉軍は西北から攻め込んできましたが、待ち構えていた漢軍によって撃退されました。この事例は、敵の力量を見極め、状況に応じた戦術を選択することの重要性を示しています。

まとめ

声東撃西は、敵を欺き、混乱させることで、自軍を有利な状況に導くための戦術です。しかし、その効果は敵の状況に左右されるため、慎重な判断と状況に応じた柔軟な対応が求められます。

関連項目

* 陽動

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