外輪

外輪（がいりん）

「外輪」という言葉は、その使用される文脈によって、まったく異なる対象を指し示す多義語です。この単語は、船の推進力を生み出す装置、火山の地形を構成する山並み、さらには車両の車輪といったように、多様な分野で用いられています。それぞれの意味合いを見ていきましょう。

船舶を進める装置

一つ目の意味として、「外輪」は船を水上で推進させるための機関を指します。特に、初期の蒸気船で一般的な推進方式として採用されていた形式です。船体の両側や船尾に設置された大きな水車のような形状をしており、その周囲には多数のブレード（羽根）が取り付けられています。この巨大な車輪が回転することで、ブレードが水を後方へと効率よく押しやり、その際に生じる反作用の力によって船は前進します。水車の原理を応用したこの推進方式を持つ船は「外輪船」と呼ばれ、その特徴的な外観から「パドルホイール船」とも称されます。スクリュープロペラが登場し普及する以前は、特に喫水の浅い河川などでの運用に適していたため広く利用されましたが、波の影響を受けやすい点や、プロペラに比べて効率が劣ることから、現代では大型の外洋航路の船にはほとんど見られません。しかし、歴史的な船舶の再現や観光目的の船などでは、そのノスタルジックな魅力から今もなお姿を見ることができます。

火山地形の外縁部をなす山並み

次に、「外輪」は火山の地形学において重要な用語です。大規模な噴火や地盤の陥没によって形成された巨大な窪地であるカルデラやクレーターの、その外周部を形成する山脈のことを「外輪山」と呼びます。かつて存在した火山体が大規模な噴火によって内部構造を失い、その中心部が崩落・陥没してカルデラが形成される際に、崩壊を免れた外側の部分が環状あるいは馬蹄状の山並みとして残ります。これが外輪山です。外輪山は、カルデラ内部の平坦な地形や、後から形成された中央火口丘などを取り囲むように連なっており、その壮大な景観はしばしばその地域の象徴的な地形となります。日本の各地に存在する巨大カルデラ地形には、それぞれ個性豊かな外輪山が見られます。

車両の曲線走行における車輪

さらに、「外輪」は自動車や鉄道車両などがカーブ（曲線）を走行する際に関連して使われる言葉です。車両がカーブを曲がる際には、内側の車輪と外側の車輪とでは、走行する軌道の長さが異なります。必然的に、外側の車輪の方が内側の車輪よりも長い距離を移動する必要があります。この、カーブの外側に位置する側の車輪を「外輪」と呼びます。鉄道車両の場合、左右の車輪は強固な車軸で連結されているため、車輪の形状やくぼみ（フランジ）がレールとの関係でこの距離差を吸収したり、誘導されたりすることでスムーズな曲線走行を可能にしています。一方、自動車の場合は、左右の車輪が独立して回転できるようになっており、デファレンシャルギア（差動装置）が内輪と外輪の回転数の違いを吸収し、カーブでの円滑な走行を実現しています。車両が安全かつ安定してカーブを曲がる上で、外輪の挙動は重要な要素となります。

このように、「外輪」という一つの言葉は、船舶工学、地理学、交通工学など、全く異なる複数の専門分野において、それぞれの対象を指し示すために用いられています。それぞれの意味は異なりますが、「外側の輪」というイメージから派生した言葉と言えるでしょう。

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