外部空間

外部空間（がいぶくうかん）とは、建築物の内側である内部空間に対して、その外部に広がる領域を指す言葉です。この概念は、建築家・都市設計家の芦原義信氏によって建築界に提唱され、その後の議論や設計実践に大きな影響を与えました。特に建築分野で広く用いられ、関連書籍も多数出版されています。

類似・関連用語

この用語に類似または関連する言葉がいくつか存在します。例えば、マンションの敷地周辺部を指す際には「ランドスケープ」がしばしば使われます。上下水道施設などの広大な敷地内屋外における整備工事に関連しては「場内整備」、屋外の緑地整備においては「環境整備」といった用語が用いられることもあります。また、「外空間」（がいくうかん）という言葉もあり、これはかつて深谷光軌氏が外部空間と同じ意味合いで使用していました。別の文脈では、天井や屋根に覆われていない都市の公共歩行者空間を「外空間」と定義し、空間の持つ「外部性」と結びつけて都市空間の特性を論じる研究もあります。

概念の多様性

一言に外部空間といっても、その内容は極めて多様です。住居の庭園のように最も身近なものから、商業施設周辺、広場、公園、そして都市全体のスケールに至るまで、扱う対象は様々です。それぞれの空間は、機能や形態も大きく異なります。例えば、個人が利用する住居の庭と、多くの人が集まる都市の広場では、求められる機能や空間構成が全く異なります。スケールも建築的なものから都市的なものまで幅広く、その物理的な構成要素も多岐にわたります。

構成要素と構造論

こうした多様な外部空間を理解し、計画するためには、その構成要素を捉えることが重要です。空間を形作る物理的な要素（建物、舗装、彫刻、植栽、水景など）、そこで行われる人間の活動（歩行、休息、イベントなど）、そして空間を設計するための抽象的な手法（連続させる、取り込む、よどませる、彩りを加えるなど）といった様々な視点から捉えられます。また、外部空間には人体の構造などと同様に、少数の根幹的な構成要素から成り立っているという見方もあります。芦原義信氏は、外部空間を構成する基本的な要素として、境界、場所、出入口、通路、しるし、周域の六つを挙げ、これらが相互に関連して空間構造を形成すると考えました。これらの要素は、概念としてだけでなく具体的な形態としても捉えられ、スケールや種類を問わずあらゆる外部空間に適用可能な、設計者や利用者が共有できるツールとして機能するとされています。

芦原義信による定義とその真髄

芦原氏は著書で、外部空間は自然の中から「枠」（フレーム）で切り取られ、限定された空間であり、単に無限に広がる自然とは異なると述べています。それは人間によって意図的に創り出された、目的を持った外部環境であり、自然そのものよりも深い意味を持つ空間であると強調しました。外部空間の特性は、内部空間以上に周辺の自然条件（地形、気候、植生、水など）から強い影響を受けます。むしろ、これらの自然条件を積極的に計画に取り込むことこそが、外部空間設計の本質であるとしています。

歴史的事例に見る外部空間

歴史上の優れた外部空間は、この自然条件との巧みな関係性を示しています。例えば、バロック期のローマにあるスペイン広場は、傾斜地という地形的な制約を逆手に取り、階段が広場そのものと一体化したユニークな空間を生み出しました。ヴェネツィアのサンマルコ広場は、一方が海に開かれていることで、その独特の空間性が生まれています。日本の伝統的な空間においても、きめ細やかな自然条件の活用が見られます。古くからの建築物の多くは、優れた外部空間の演出と不可分一体となって存在しており、例えば神社や寺院への参道は、俗世から聖域への心理的な移行プロセスを見事に空間化した歴史的な試行錯誤の結晶といえます。これらの例は、外部空間が単なる空き地ではなく、自然条件と人間の意図が結びついて豊かな意味を持つ場となることを示しています。

現代における外部空間の課題

外部空間のスケールは理論的には非常に広範ですが、一般的に建築設計や都市計画で対象とするのは、建築物と都市の間の中間的な領域です。ヨーロッパの広場など歴史的な優れた事例に関する研究は豊富ですが、現代の都市空間におけるこのスケール、特に公共空間としての外部空間は、近年まで十分に注目されてこなかった側面があります。多くの公共施設において、建物本体の設計に比べ、その周辺の外部空間は予算や時間の面で「外構工事」として付随的に扱われることが少なくありません。しかし、都市の本質的な魅力を体験するには、単に施設を利用したり車で移動したりするだけでなく、街路を歩き回りながら都市の持つ多様な「意味」を読み取ることが重要であり、そのための舞台となるのが外部空間なのです。

外部空間のデザインは、特に「関係性」のデザインといえます。建築物と周辺環境、物理的な要素同士の関係に加え、都市空間を構成する多数の意思決定者（行政、民間、市民など）間の社会的、経済的、文化的な関係性も、デザインに大きな影響を及ぼします。単一の建築物のように、一つの価値観や組織でコントロールできる場合とは異なり、多くの関係者が関わる都市スケールでは、合意形成のプロセスが複雑化し、困難になることが多いため、意図された関係性が十分に築かれずに空間が形成されてしまうことも少なくありません。

過去の高度経済成長期には、急速な都市への人口流入に対応するため、都市行政は施設の「量」的な充足に追われました。学校建築などにその傾向が見られ、地域性を無視した画一的な設計が多く採用されました。近年は「質」への転換も進み、意欲的な設計も見られますが、中には庁舎建築のように必要以上に豪華になり、都市環境全体のレベルアップには繋がらない「一点豪華主義」に留まる例も見られます。このような状況を踏まえ、個々の施設計画が都市全体とどのように関わるか、特に接点となる外部空間のあり方に焦点を当て、その理論的枠組みと具体的な事例の分析が不可欠です。

近代都市計画は、機能を重視するあまり、都市空間が本来持つべき人間の情感的な側面を削ぎ落としてしまったとも言われます。その結果、都市は土地利用の純化やインフラ整備といった物理的な機能に特化し、建築は周囲から孤立した単体の施設として扱われる傾向が強まりました。この都市空間と建築空間の「断絶」は、現代都市の混乱の一因となっています。こうした問題意識は、19世紀末にカミロ・ジッテが『広場の造形』の中で既に指摘し、歴史的な広場の分析から普遍的な原理を見出し、当時の都市への改善案を提案しています。

豊かな歴史的事例が示すように、外部空間は単なる空き地ではなく、そこに集まる人々の活動を支え、都市や地域の歴史や文化を体現し、「意味」を生み出す重要な場です。現代の外部空間が直面する課題を克服し、より豊かで魅力的な空間を創造するためには、歴史から学び、構成要素や関係性を深く理解し、多角的な視点から計画・設計に取り組むことが求められています。

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