多層アーキテクチャ

多層アーキテクチャとは

多層アーキテクチャは、ソフトウェアを機能ごとに複数の層に分割し、各層を独立したモジュールとして開発・保守するソフトウェアアーキテクチャパターンです。各層は明確なインターフェースを持ち、互いに連携することでシステム全体を構成します。この構造により、特定の層のみを独立して変更したり、異なるプラットフォーム上で動作させることが可能になり、ソフトウェアの柔軟性や保守性が向上します。

多層アーキテクチャの起源と変遷

多層アーキテクチャの概念は、Rational社によって提唱された「三層（three-tier）」という用語や、「多層アーキテクチャ」という用語が起源とされています。一般的に、tier は物理的に異なるサーバを指し、layer はソフトウェア上の役割分担を指すと解釈されることが多いですが、英語の tier がソフトウェア的な役割分担を意味する場合もあり、その定義は曖昧です。また、時代と共にその意味合いは変化しており、例えばマーティンファウラー氏がまとめた書籍「アナリシスパターン」 (1996)と「エンタープライズアプリケーションアーキテクチャパターン」(2002)では、用語の定義に違いが見られます。さらに、AAG(2009)は、AAfN(2003)の改訂版であるように、多層アーキテクチャの概念は常に進化しています。

多層アーキテクチャの例

多層アーキテクチャは、クライアントサーバモデルの一種であり、アプリケーションが複数のソフトウェアエージェントによって実行される構成です。例えば、ユーザーからのデータ要求に応じて、ミドルウェアを介してデータベースにアクセスするアプリケーションは多層アーキテクチャの典型的な例です。特に、三層アーキテクチャはその代表的な例として知られています。

三層アーキテクチャ

クライアントサーバモデルにおける三層アーキテクチャは、以下の3つの層で構成されます。

1. プレゼンテーション層: ユーザーインターフェースを提供する層で、デスクトップPCやワークステーション上でGUIを用いて操作するのが一般的です。
2. ビジネスロジック層: アプリケーションのビジネスルールを実装する層で、ワークステーションやアプリケーションサーバ上で動作します。この層は複数のモジュールで構成されることもあります。
3. データ層: データベースやデータアクセスを管理する層で、サーバやメインフレーム上のRDBMSが使用されます。

中間層（ビジネスロジック層）自体が多層化されることもあります。

MVCアーキテクチャとの比較

多層アーキテクチャとMVCアーキテクチャは、一見似ているように見えますが、トポロジーや適用分野が異なります。

多層アーキテクチャ は、プレゼンテーション層とデータ層が直接通信せず、必ず中間層を経由するという原則を持っています。そのため、多層アーキテクチャは直線的な情報経路を表します。

一方、 MVCアーキテクチャ は、Model、View、Controllerの3つが相互に通信する三角形の構造を持っています。MVCは、ユーザインターフェースにおける画面上のコンポーネントの管理方法を定義します。つまり、多層アーキテクチャがシステム全体の情報経路を表現するのに対し、MVCは画面表示を構成する要素を管理するものです。MVCの概念は、多層アーキテクチャのアプリケーションでも利用されることがあります。

歴史的背景

三層アーキテクチャは1990年代に、Webアプリケーションなどの分散システムにおいて、クライアント、ミドルウェア、データベースがそれぞれ物理的に異なるプラットフォームで動作するようになったことで生まれました。一方、MVCは1980年代に、1つのワークステーション上で動作するアプリケーションの仕組みとして生まれました。分散アプリケーションへの適用は後のこととなります。

Web開発での利用

Web開発の分野では、三層モデルはWebサイト、特に電子商取引サイトの構成を説明するために用いられます。この場合、各層は以下のように定義されます。

プレゼンテーション層: 静的なコンテンツを提供するWebサーバ
中間層: 動的なコンテンツを生成するアプリケーションサーバ（例：Jakarta EEプラットフォーム）
データ層: データベースとその管理システム（例：RDBMS）

参考文献

本記事は、以下の参考文献を参考に作成されました。

Free On-line Dictionary of Computing
アナリシスパターン (1996) マーティンファウラー著
エンタープライズアプリケーションアーキテクチャパターン(2002) マーティンファウラー著
AAfN(2003)
AAG(2009)

多層アーキテクチャ