夜と霧 (映画)

映画『夜と霧』：ホロコーストの真実を告発するドキュメンタリー

『夜と霧』（仏: Nuit et brouillard）は、アラン・レネ監督が手掛けた1956年公開のドキュメンタリー映画です。第二次世界大戦中にナチスが行ったホロコースト、特にアウシュヴィッツ強制収容所でのユダヤ人虐殺を告発する内容となっています。この映画は、全32分という短い作品ながら、当時のカラーフィルム映像と戦時中のモノクロニュース映像や写真をコラージュのように組み合わせる斬新な手法で、ナチズムの残虐性を描き出しました。

タイトルと映画の構成

映画のタイトルは、1941年12月7日にヒトラーが出した総統命令「夜と霧」に由来します。この命令は、ナチスが占領地で逮捕した政治犯や抵抗運動家を秘密裏に処刑し、その存在を隠蔽することを目的としたものでした。映画では、当時の映像と音楽を巧みに組み合わせ、アウシュヴィッツをはじめとする強制収容所の悲惨な状況を浮き彫りにしています。音楽を担当したハンス・アイスラーは、ナチスに抵抗した作曲家であり、その音楽は映画に重厚な雰囲気を与えています。

誤解と修正主義者の主張

映画の中で、アウシュヴィッツでの死者数を900万人とする誤った情報が流布しているという主張が一部に存在します。これは、映画の終盤近くに登場するナレーションで「900万人の死者」という言葉が使われていることに起因します。しかし、ナレーション全体を注意深く聞くと、「900万人の死者」がアウシュヴィッツだけの犠牲者数であるとは言及されていません。映画では、アウシュヴィッツのビルケナウ収容所の映像を背景にこのナレーションが流れますが、この映像がアウシュヴィッツだけのものであるとは明示されていません。また、映画全体を通して、アウシュヴィッツの名前が登場するのは冒頭の収容所リストのみです。これらのことから、「900万人」という数字は、ナチスドイツの強制収容所全体の犠牲者数を示していると解釈するのが妥当です。

修正主義者たちは、この映画が「ナチスが人間石鹸を作ったり、アウシュヴィッツで900万人もの人々が殺された」と主張していると歪曲しています。しかし、映画では「遺体を使って石鹸を作ろうとした」というナレーションがあるだけで、ナチスが組織的に人間石鹸を製造したとは述べていません。この主張の背後には、歴史家の信用を失墜させようとする意図があると言われています。

映画の正確性と歴史的背景

監督のアラン・レネ自身も、映画に登場する「900万人」はアウシュヴィッツだけの犠牲者数ではないことを認めています。映画制作に協力した歴史家たちも、当時アウシュヴィッツの犠牲者数を900万人とは主張していませんでした。彼らの著作や雑誌記事では、アウシュヴィッツの犠牲者数は250万人から400万人とされています。また、収容所全体の犠牲者数は約800万人とされています。

フランスの歴史家シルヴィ・リンデペルグの研究によれば、映画の「900万人」という数字は、ナチスの強制収容所全体の犠牲者数を示しており、アウシュヴィッツのみの犠牲者数ではないことが明確にされています。

関連作品

『夜と霧』というタイトルは、ホロコーストや強制収容所をテーマにした多くの作品に影響を与えてきました。ヴィクトール・E・フランクルによる『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』は、心理学者である著者が収容所での体験を綴った記録です。また、大島渚監督の『日本の夜と霧』は、安保闘争を背景にした作品であり、北杜夫の小説『夜と霧の隅で』は、ナチスの安楽死作戦を描いています。これらの作品は、映画『夜と霧』とは異なるテーマを扱っていますが、そのタイトルは、歴史的な出来事や人間の苦悩を想起させるものとして広く知られています。

まとめ

映画『夜と霧』は、ホロコーストの悲劇を世界に伝えた重要なドキュメンタリー作品です。その衝撃的な映像と音楽は、観る者に深い感動と衝撃を与えます。映画に登場する「900万人」という数字は、アウシュヴィッツだけの犠牲者数ではないということを正しく理解することが、この映画の意図を理解する上で重要です。

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