夜の底は柔らかな幻

『夜の底は柔らかな幻』は、1984年10月1日にCBS・ソニーからリリースされた久保田早紀（現・久米小百合）の7枚目のアルバムです。このアルバムは、久保田自身が金子文枝と共同で初めてプロデュースを手掛けた作品であり、サウンド・プロデュースは久米大作が担当しました。当時、久保田は久米との結婚と引退を考えていた時期であり、このアルバムは彼女にとって最後の作品となりました。

アルバム制作にあたり、久保田は「遊園地みたいに面白くて小説よりも素敵なアルバム」を目指し、先鋭的なアレンジと幻想的な歌詞が調和した音楽を作り上げました。彼女自身も「自分がやりたかった音のすべてを注ぎ込んだ」と語っており、その音楽的な探求心が表れています。LPレコードでは、A面に「Fortissimo Dream」、B面に「Pianissimo Dream」と、それぞれ異なるテーマが設けられています。

アルバムのジャケットは、久保田が魔術師風の衣装を身にまとった印象的なスタイリングで、これはかつてプラスチックスやMELONのメンバーとして活躍した佐藤チカがイメージしたものです。使用されている帽子やバッジは佐藤の私物であり、写真撮影は女流写真家の久留幸子が担当しました。このジャケットからも、アルバムの幻想的な世界観が伝わってきます。

また、アルバムと同日には、B-2に収録されている「ピアニッシモで…」が、タイトル曲であるB-1「夜の底は柔らかな幻」とのカップリングでシングルカットされました。このシングルもまた、アルバムの魅力を引き立てる重要な要素となっています。

久保田のデビュー40周年を記念して発売されたアニヴァーサリーBOX『Saki Kubota PREMIUM』では、このアルバムに未収録だったシングルの「お友達」や「夜の底は柔らかな幻」のシングルバージョン、さらにはNHK-FMで放送されていた番組「ふたりの部屋 “ドゥ・ユ・ラブ・ミー”」のテーマ曲など、5曲がボーナストラックとして追加収録されました。これらの追加トラックは、アルバムの世界観をさらに深く理解する上で重要な要素となっています。

アルバムの収録曲は、LPレコード、カセットテープ、CDでそれぞれ異なる構成となっていました。参加ミュージシャンには、久米大作、和泉宏隆（Keyboards）、渡辺建、寒河江勇志（Bass）、青山純（Drums）、仙波清彦、Leichi（Percussion）、北島健二（E. Guitar）、石川鷹彦、安田裕美（A. Guitar）など、豪華なメンバーが名を連ねています。また、Matto（Tabura）、数原晋（Tp, Fl, Accordion）、吉野弘志（W. B）、大野グループ、JOEストリングス（Strings）、浦田恵司（Synthesizer Operator）など、多彩なミュージシャンが参加しており、その音楽的な豊かさを支えています。

シングル「お友達」は、アルバムには未収録のシングルで、1984年3月23日にリリースされました。当初はアルバムに収録される予定でしたが、諸般の事情により見送られ、同年11月に発売されたカセット企画『BEST SELECTION』に収録されました。このバージョンは後に40周年アニヴァーサリーBOX『Saki Kubota PREMIUM』にボーナストラックとして追加収録され、初めてCD化されました。作詞は三浦徳子、作曲は久保田早紀、編曲は久米大作が担当しました。

シングル「ピアニッシモで…」は、アルバム『夜の底は柔らかな幻』と同時発売されたシングルで、B面にはアルバムとは異なるバージョンの「夜の底は柔らかな幻」が収録されています。久保田が夢の中で見た箱舟が森の中を流れてくるという不思議な光景からインスピレーションを得て作られた曲で、彼女自身はA面にしたいと考えていましたが、最終的にはB面となりました。作詞は三浦徳子、久保田早紀が担当し、作曲は久保田早紀、編曲は久米大作が担当しています。

このアルバムは、久保田早紀の音楽的な才能と創造性が結実した作品であり、彼女のキャリアの中でも特別な位置を占めています。その幻想的で美しい音楽世界は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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