夜這い

夜這いの文化と歴史

夜這い（よばい）は古代日本において、男女が求婚や結婚の初期段階において行われた特異な風習である。この慣習は、時代と共にその意味合いや実態を変化させてきたが、原義は「呼び寄せる」ことから派生し、求婚のために男性が女性のもとを訪れる行動や、その後の性的接触を指していた。

語源と歴史的背景

「夜這い」という言葉は、もともと男性が女性に求婚する際に呼びかける行為（呼ばう）が根底にあると言われている。平安時代の『万葉集』には、夜這いに関する歌が詠まれており、その後も農漁村を中心に大正時代まで持続されていた。戦後の高度成長期直前まで、この風習は各地の村に根強く残っていたと言われている。

徳川時代には、風俗的な規制として夜遊びや夜這いを禁じる法令がしばしば出されていたが、これらは婚姻の強制を意図したものではなかった。明治維新時期には、一夫一妻制の導入と国民道徳の向上が求められ、夜這いの習慣は一層衰退することとなった。特に、農漁村に電灯が普及する中で、夜這いの風習は少なくなり、その代わりに売春街などが発展していった。

生活文化としての夜這い

夜這いの行為は、単なる性的接触にとどまらず、当時の村社会や共同体においては、男女の結びつきを深める重要な儀式でもあった。多くの場合、男性が女性のもとを訪れる形態が一般的であったが、女性が通う習慣を持つ地域も存在した。特に古代の日本社会では、婚姻関係は「妻問い婚」であり、夫が妻のもとを訪ねることが一般的であったため、夜這いは自然な行為として受け入れられていた。

また、村落には共同体内で婚姻のルールを設けた「若者組」と呼ばれる組織が存在し、未通女や人妻に関する具体的なルールが定められていた。これにより、男女の関係はある程度の秩序を持ちながら、自由に形成されることが許容されていた。

現代における夜這いの見解

夜這いの風習は近代以降、人々の価値観の変化とともに衰退していった。明治政府は資本主義体制の発展とともに、国家財政に貢献しない民俗を排除し、性産業の発展を図った。これに伴い、夜這いは否定的な文化とされるようになり、時には「淫風陋習」などと評されることもあった。戦後、より社会が変化する中で、この文化は徐々に過去の遺物として扱われていった。

民俗学の視点からの考察

近年の民俗学的研究では、夜這いについての理解が広がりつつある。赤松啓介の研究によると、夜這いは時代や地域、社会層により様々な形態を持ち、共同体の掟に従いながらも性的自由が存在した。祭りなどでは共同で性的行為が行われることもあり、このような姿は決して恥じるべきものではなかったという。また、性的教育として性交が行われる儀式もあったことが示されており、若者たちはそこでの経験を通じて成長していった。

このように、夜這いは単なる風俗ではなく、古代日本の社会構造や文化、男女の関係性を映し出す重要な要素であった。今日、夜這いが持っていた多面的な側面を理解することは、過去の日本社会を知る上で不可欠なアプローチと言えるだろう。

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