夢虹二

夢虹二（ゆめ こうじ）は、大正元年（1912年）8月11日に埼玉県加須市で生を受けた作詞家である。本名を須永孝一郎といい、生涯を通じて主に童謡や歌謡曲といった分野で、後世に残る数々の詞を手がけた。平成元年（1989年）7月12日に76年の人生に幕を閉じるまで、日本の音楽文化に貢献し続けた。

彼の作詞家としての歩みは、一冊の古本から始まったという。日本大学商学科に在籍していた頃、偶然古本屋で見つけた北原白秋の全集をわずか1円で購入し、その世界に深く没入したことが、詞作の道を志す決定的な契機となった。白秋の詩の世界に触れたことで、言葉の持つ力や表現の可能性に目覚めたのだろう。

プロの作詞家として活動を本格化させたのは、1955年にキングレコードと専属契約を結んでからである。これを機に、彼は精力的に作品を発表していく。その創作の幅は広く、子供向けの愛らしい童謡から、大人の心に響く歌謡曲、さらには地域の特色を捉えた新民謡まで、多岐にわたった。

特に童謡においては、今なお多くの人々に歌い継がれる代表作を数多く生み出した。「すうじのうた」は、数字を覚える子供たちにとって親しみやすい歌として広く知られている。「とんぼの中にぼくがいる」は、子供の視点から描かれた情景が心を打つ作品であり、「北風こぞう」は冬の季節感を表現した童謡として親しまれている。これらの作品は、彼の童心を忘れない豊かな感性と、子供たちの情景を巧みに捉える言葉の力が融合した結果といえる。

一方で、歌謡曲の分野でもヒット曲を生み出した。「まつの木小唄」や「ハマの女」といった楽曲は、当時の歌謡界で注目を集め、作詞家・夢虹二の名を広く知らしめた。また、新民謡として手がけた「わらび摘み唄」のように、特定の地域やテーマに基づいた楽曲も創作し、その多様な才能を示した。

作詞活動と並行して、彼は日本の童謡界の発展にも尽力した。特筆すべきは、日本童謡協会の事務局長を18年もの長きにわたり務めたことである。この役職を通じて、童謡の普及促進や、次世代の童謡作家の育成にも貢献し、日本の童謡文化の維持・発展に重要な役割を果たした。

その功績は正当に評価され、いくつかの栄誉に輝いている。1972年には、童謡「とんぼの中にぼくがいる」が評価され、日本作詩大賞の童謡賞を受賞した。これは、彼の童謡作品が芸術的にも高いレベルにあることを示すものであった。さらに、逝去する前年の1988年には、長年の童謡界への貢献が称えられ、第18回日本童謡賞特別賞が贈られた。

夢虹二は、古書から得たインスピレーションを源泉に、童謡から歌謡曲まで幅広いジャンルで心に残る詞を生み出し続けた。日本童謡協会の要職を務めるなど、文化の振興にも貢献した彼の存在は、日本の音楽史において重要な位置を占めている。1989年に76歳でその生涯を閉じたが、彼が残した数々の歌は、これからも多くの人々の心に響き続けるだろう。

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