夢見る頃を過ぎても (中島梓)

夢見る頃を過ぎても

『夢見る頃を過ぎても』（ゆめみるころをすぎても）は、作家・評論家である中島梓（なかじま あずさ）による文芸評論集です。本書の副題は「中島梓の文芸時評」とされています。これは、著者が1994年5月号から1995年4月号にかけて、雑誌『海燕』（かいえん）に連載した文芸時評をまとめたものです。連載された評論は、当時の日本の文学界や話題となった作品、新人賞の動向など、幅広いテーマにわたって中島梓独自の視点から論じられており、その明快な筆致と洞察力によって多くの読者から注目を集めました。

書誌情報

連載終了後、本書は単行本として刊行されました。最初にベネッセコーポレーションから1995年6月10日に発売されたハードカバー版（ISBN 4-8288-2506-1）があり、その後、より多くの読者が手に取りやすい文庫版として、ちくま文庫から1999年3月24日に刊行されました（ISBN 4-480-03471-4）。単行本および文庫版として再編成されるにあたり、連載時の文章に加筆修正が加えられている場合や、単行本化にあたって新たに書き下ろされた文章が収録されていることもあります。本書は、特定の期間における中島梓の文芸批評活動を知る上で重要な資料となっています。

評価

本書は刊行当時から文壇内外で高い評価を受けました。特に、文芸評論家の安原顯（やすはら あきら）をはじめとする複数の批評家から、その批評眼の鋭さや分析の的確さ、そして時代を読み解く視点などが高く評価されました。これは、中島梓が単なる作品紹介に留まらず、文学を取り巻く社会状況や時代背景にも目を向けながら論を展開していることによるものです。

内容

本書には、雑誌『海燕』に掲載された文芸時評を中心に、以下の各章が収録されています。これらのタイトルからもわかるように、村上春樹や大江健三郎といった当時を代表する作家の作品論、新人賞のあり方、ベストセラーの構造など、多岐にわたるテーマが扱われています。

不思議の島のガリバー
ガリバーばななを読む
欲望という名のファンタジー
新人賞、今日はどこまでいったやら
1960年のゲートボール
ムラカミは電気羊の夢を見るか
少女たちの見る夢は
夢見る頃を過ぎても
文学を殺したのはだあれ「わたしだわ」と大江健三郎がいった
ベストセラーの構造'94
何処へ―時評のさいごに
リリパット島を遠く離れて（あとがき）

これらの章立ては、雑誌での連載順に沿っている場合もあれば、単行本化にあたって再構成されている場合もあります。最後の「リリパット島を遠く離れて」は、単行本のために書き下ろされたあとがきであり、一連の文芸時評を終えた著者自身の心境や、本書全体の意図が綴られています。この評論集は、1990年代半ばの日本の文学状況を知るための貴重な記録であり、また中島梓という批評家の思考の軌跡をたどる上でも重要な一冊と言えます。

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