安原顯

天才編集者・安原顯（やすはら けん）

安原顯（1939年4月29日 - 2003年1月20日）は、日本の編集者、評論家として知られています。自らを「天才ヤスケン」「スーパーエディター」と称し、『海』や『マリ・クレール』といった雑誌で活躍しました。その風貌は、チリチリパーマにサングラス、そして髭という独特なものでした。

生い立ちと青春時代

東京に生まれた安原は、幼少期に父親を亡くし、母方の祖父の家で育ちました。しかし、祖父から差別的な扱いを受けた経験が、彼の批判精神を形成する原体験となったと言われています。大森第三中学校では図書委員を務め、読書に没頭。また、父親の残したレコードやFEN放送を通じて音楽にも目覚めました。

都立高校を中退後、早稲田高等学院に再入学。そこで文学、思想、芸術に関する書籍を読み漁りました。大学時代は、生活費を稼ぐために万引きに手を染めるという破天荒な一面も。しかし、その一方で、翻訳家となる原葵や、歌人の中川道弘らと親交を深めました。

編集者としての才能開花

大学卒業後、いくつかの出版社を経て、竹内書店に入社。『パイディア』を創刊し、現代思想や先鋭的な文学を紹介しました。その後、中央公論社に移籍し、『海』の編集者として活躍。村松友視、塙嘉彦らと共に雑誌の黄金時代を築き上げました。

『海』の終刊後、『マリ・クレール』の副編集長に就任。書評欄の新設や「読書の快楽」特集の企画など、独自の編集手腕を発揮し、雑誌を大きく変貌させました。当時「ニューアカ」ブームで「知がおしゃれ」だったことも追い風となり、雑誌は完売となりました。

メタローグ社設立とその後

1991年に中央公論社を退社後、メタローグ社を設立し、書評誌『リテレール』を創刊。CWS（Creative Writing School）という専門講座を開設し、作家やライターの育成にも尽力しました。

しかし、経営難と原稿料未払い問題により、メタローグ社を退社。その後は学習研究社の編集顧問などを務めました。晩年は、オンライン書店bk1の「文芸サイト」編集長として活躍しました。

晩年と死

肺がんであることを公表し、闘病生活を送りました。最期まで執筆意欲は衰えず、音声入力ソフトや口述筆記を使いながら原稿を書き続けました。2003年1月20日、63歳で死去。

生原稿流出問題

没後、安原が担当していた作家の自筆原稿を無断で古書店に売却していたことが発覚。坪内祐三や村上春樹らから批判を浴びました。この問題は、彼の功績に影を落とすこととなりました。

影響と評価

安原顯は、その過激な言動や破天荒な生き方で賛否両論を呼びましたが、編集者としての才能は高く評価されています。既成概念にとらわれない自由な発想と、時代を挑発する企画力で、多くの読者を魅了しました。また、村上春樹や吉本ばななといった才能をいち早く見出したことでも知られています。

その生き様は、村松友視によって『ヤスケンの海』として評伝が出版され、多くの人に読まれました。安原顯は、日本の出版史に名を残す、特異な存在だったと言えるでしょう。

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