大いなる夜

『大いなる夜』（原題：The Big Night）は、1951年製作のアメリカ合衆国サスペンス映画です。ハリウッドで活躍したジョゼフ・ロージー監督が、赤狩りを逃れてヨーロッパに亡命する前に手がけた最後の作品として知られています。出演は、ジョン・バリモア・ジュニア、プレストン・フォスターといった当時の名優たちが名を連ねています。

本作は、スタンリイ・エリンの小説『断崖（原題：Dreadful Summit）』を原作としており、エリン自身も脚色に参加しています。日本では劇場公開されませんでしたが、WOWOWでの放映や、2012年に発売された「ジョセフ・ロージー傑作選 DVD-BOX」への収録を通じて、徐々に知られるようになりました。

物語の中心人物は、幼い頃に母を亡くし、寡黙な父アンディと、父の親友であるフラナガンと共にバーで暮らす青年ジョージです。彼は、男らしい父を深く尊敬していました。ある日、父のバーで17歳の誕生日を迎えたジョージは、人気スポーツコラムニストのアル・ジャッジに遭遇します。アルは突如、父アンディに屈辱的な暴行を加えます。この出来事をきっかけに、ジョージはアルへの復讐を決意し、拳銃を持って夜の街へと飛び出します。

ジョージは、父と共に見に行く予定だったボクシングの試合会場にアルが来ると思い込みますが、アルは見つかりません。しかし、そこで出会った気さくなクーパー博士と親しくなり、夜の街で楽しい時間を過ごします。酔いつぶれたジョージは、クーパー博士の恋人ジュリーの家で目を覚まし、ジュリーの妹マリオンと出会います。マリオンとの交流の中で、ジョージは彼女に恋心を抱き、初めてのキスを交わします。しかし、マリオンがジョージの拳銃を隠したことから、ジョージは子供扱いされていると感じ、拳銃を持って部屋を飛び出します。

アルの居場所を突き止め、新聞社へ向かったジョージは、既にアルが帰宅したことを知らされます。アルのアパートに向かうと、入り口に父の恋人フランシスの名前を見つけます。訝しみながらもフランシスの部屋に入ると、そこにはアルがいました。ジョージはアルに拳銃を向けますが、アルは衝撃的な事実を明かします。フランシスはアルの妹であり、アンディから結婚を拒否され、自殺していたのです。アルはアンディへの激しい憎悪を露わにします。

この事実を知り、ショックを受けたジョージは銃を置こうとしますが、アルが銃を手に取り、ジョージに向けます。もみ合いの末、銃が暴発し、アルは倒れます。アルを殺したと思い込んだジョージは、銃を持って逃げ出し、マリオンのもとに向かいます。しかし、アルが生きていたことを知ったクーパー博士は激怒し、ジョージを追い出します。

家に帰ったジョージは、父アンディに寝かしつけられますが、そこに警察がやってきます。アルを撃った犯人として、アンディが逮捕されるのです。アルはかすり傷だけで済んでいましたが、父が身代わりになることを受け入れられないジョージは、自分を逮捕しなければ自殺すると叫びます。

この事態に、アンディはついにジョージに真実を打ち明けます。それは、死んだと思われていたジョージの母親がまだ生きており、子育てに疲れて男と駆け落ちした過去、そして、ジョージに母親を憎ませたくないという思いから、母親の死を偽装していたという衝撃的な事実でした。アンディは、そんな母親をいまだに愛しているため、フランシスと結婚できなかったと告白します。父の言葉に落ち着きを取り戻したジョージは、父と共に警察に向かうのでした。

この映画は、復讐劇という外側の事件を通して、家族の隠された過去と複雑な愛憎、そして、父と子の葛藤を繊細に描いたサスペンスドラマです。ジョゼフ・ロージー監督の優れた演出力と、名優たちの演技が相まって、観る者を深い感動と余韻へと誘います。

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