大セルビア

大セルビア主義とは

大セルビア（Велика Србија / Velika Srbija）とは、セルビア民族主義に根ざした、民族統一主義の概念です。これは、バルカン半島西部の広大な領域をセルビア領とすべきだと主張するもので、その根拠は、歴史的なセルビア人の居住地であること、中世セルビア王国の支配領域であったこと、そして多くのセルビア人が移住した地域であること、主にこの3点にあります。

大セルビア主義の概要

大セルビア主義は、すべてのセルビア人とセルビア人の土地を一つの国家に統合することを目標としています。その形態は、現存するセルビアの拡張から、セルビア人が少数でも居住する土地の編入まで、多岐にわたります。

この思想は、セルビア国家にとって不可欠なものであり、「統合のみがセルビア人を救う」という歴史的な格言を引用し、その必要性を訴える政治家も存在します。第一次世界大戦や1990年代のユーゴスラビア紛争は、この大セルビア主義が原因の一つであるとも指摘されています。

大セルビア主義の変遷

大セルビア建設の手法としては、セルビア国外の南スラヴ人地域へのプロパガンダの拡散が挙げられます。ユーゴスラビア建国も、表面的には多民族共存の国家でしたが、実際にはセルビア人の政治家が多数派を握っていました。

大セルビアの概念は、19世紀にセルビアの大臣イリヤ・ガラシャニンの著作物『ナチェルタニイェ』に起源を持つとされています。この著書は、オスマン帝国とオーストリア＝ハンガリー帝国によって分断されていたセルビア人の土地を統合することを目的としていました。

大セルビア主義の用語の起源

「大セルビア」という用語は、1872年にセルビアの社会主義者スヴェトザル・マルコヴィッチが、周辺民族との衝突や文化的変容を伴うセルビア国家の拡張を批判的に捉え使用したのが始まりです。しかし、19世紀末には、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の知識人イェフト・デディイェルが、統一されたセルビア国家の核となる概念として使用するなど、その立場は変化していきました。

ユーゴスラビア崩壊と大セルビア主義

1986年に発表された「セルビア科学芸術アカデミーの覚書」は、ユーゴスラビアにおけるセルビア人の苦悩と不公平感を訴え、1980年代の汎セルビア運動における重要な文書となりました。この覚書は、スロボダン・ミロシェヴィッチの影響力増大と、その後のユーゴスラビア紛争につながるものとされています。

1990年代のユーゴスラビア紛争では、大セルビアの概念が、セルビア国外の領域にセルビア人国家を打ち立て、維持するための武力闘争の主要な動機となりました。

大セルビア主義への批判

大セルビアの概念は、旧ユーゴスラビアの他民族や国際社会から批判されています。その理由は、歴史的な根拠が曖昧な領土要求を行っていること、そして他民族の意思を無視した強権的なものであることなどが挙げられます。

大セルビア主義の現状

クロアチア紛争でのセルビア人武装勢力の敗北、スルプスカ共和国の成立、コソボの国連統治などの事実は、セルビア国内外で大セルビア主義への不信感を高めました。しかし、セルビアの民族主義政治家の間では、依然として強い影響力を持っています。

結論

大セルビア主義は、セルビア民族の統一を求める思想ですが、その過程で多くの紛争と悲劇を生み出してきました。歴史を教訓とし、共存共栄の道を探ることが、今後のバルカン半島にとって重要な課題となるでしょう。

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