大フーガ (ベートーヴェン)

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲『大フーガ』

『大フーガ』（Große Fuge）変ロ長調 作品133は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1825年から1826年にかけて作曲した弦楽四重奏曲です。この作品は、当初は弦楽四重奏曲第13番の終楽章として作曲されましたが、その難解さから後に独立した作品となりました。

成立の背景

ベートーヴェンが聴覚を完全に失っていた時期に作曲された本作は、当時の音楽界において非常に革新的な作品でした。初演時、終楽章のフーガは演奏されず、ベートーヴェンは不満を露わにしたと伝えられています。演奏家にとっても技術的に難しく、聴衆にも理解されなかったため、出版社の依頼で新たな終楽章が作曲され、『大フーガ』は独立した作品として出版されました。

評価の変遷

19世紀の間、『大フーガ』は理解されず、失敗作と見なされることもありました。ルイ・シュポーアは「恐怖」を感じ、ダニエル・グレゴリー・メイソンは「人好きのしない」曲と評しました。作曲家フーゴー・ヴォルフも、ベートーヴェンの晩年の弦楽四重奏曲を「中国語のように不可解」と評しています。

しかし、20世紀に入ると再評価が進み、現在ではベートーヴェンの偉大な業績の一つとされています。イーゴリ・ストラヴィンスキーは「絶対的に現代的な楽曲」と評し、今日では頻繁に演奏・録音されています。

楽曲構成

『大フーガ』は、24小節の序奏で始まり、2つのフーガ主題のうち1つが導かれます。この主題は、弦楽四重奏曲第15番の開始主題と関連があります。その後、激しい二重フーガへと展開し、4つの楽器が複雑に絡み合います。

曲は、様々な調性、リズム、速度を持つ部分が連続し、時に突然中断されるなど、予測不能な展開が特徴です。終結部では、長い休符を挟みながら速度を落とし、序奏が再現され、急激な結句で終わります。演奏時間は約16分です。

ベートーヴェンの他の後期作品と同様に、『大フーガ』は単一楽章の中に複楽章の要素を含んでいると解釈できます。変奏曲、ソナタ形式、フーガの要素が融合しており、変ト長調の抒情的な部分は、独立した緩徐楽章と同等の重要性を持っています。

自筆譜の発見

2005年、1826年に作成された『大フーガ』の4手ピアノ版の自筆譜が発見されました。この手稿は115年間失われていたもので、サザビーズのオークションで高値で落札されました。この自筆譜は、1890年に競売に出され、その後、アメリカの資産家の手に渡り、最終的に教会の図書館に寄贈されたとされています。

まとめ

『大フーガ』は、ベートーヴェンの革新性と音楽的探求を示す作品です。当初は理解されませんでしたが、現代ではその複雑さと深さが評価されています。弦楽四重奏の傑作として、多くの音楽愛好家に親しまれています。

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