大地の顔役バギ

手塚治虫『大地の顔役バギ』：ジャガーと少年の宿命の物語

手塚治虫の漫画作品『大地の顔役バギ』は、1975年から1976年にかけて『少年アクション』誌に連載された未完の作品です。ブラジルのジャングルを舞台に、開発によって家族を殺されたジャガーの息子バギと、彼を狩るために雇われた日本人少年麻理夫の出会いと対立を描いた、人間と自然、そして復讐と贖罪の物語です。

物語は、ブラジルの農園開発を計画したフェルナンド・ゴメス社長が、ジャガーの生息地を破壊したことから始まります。ゴメスはジャガーを殺害しますが、その妻はすでに妊娠しており、息子バギを残して命を落とします。復讐に燃えるバギは、ゴメスを殺害し、彼の遺品であるロザリオを奪います。

一方、莫大な遺産相続を条件に、ゴメスの弟ホセは麻理夫を雇い、バギを狩ることを依頼します。麻理夫はジャングルへと赴き、バギと遭遇しますが、バギの圧倒的な力と知能の前に苦戦を強いられます。バギは、人間の言葉を理解し、驚くべき知略と戦闘能力を持つ存在として描かれています。

物語は、麻理夫とバギの激しい攻防、そして彼を取り巻く人々との交流を描写していきます。麻理夫は、バギの母親の毛皮で作った頭巾を手に入れ、それを利用してバギと接触を試みます。この頭巾は、驚くべきことに、バギの言葉を理解できるという不思議な力を持っていました。

麻理夫とバギは、ロザリオと母親の毛皮の交換を巡り、複雑な交渉を繰り広げます。しかし、交渉は決裂し、麻理夫はバギの縄張りで様々な困難に直面します。麻理夫は、バギの過去を知り、彼に対する感情が変化していく過程も描かれています。バギは、人間に家族を殺された過去を持ち、復讐心と孤独を抱えて生きているのです。

物語は、さらに別のジャガー、ジゴの登場により、新たな展開を迎えます。ジゴは、人間に追われてバギの縄張りに逃げ込んできた雌ジャガーです。バギはジゴを愛し、結婚を考えますが、ジゴが村の子供たちを襲った事件を引き起こし、バギは冤罪を着せられます。バギはジゴを殺し、麻理夫にその死骸を突きつけ、冤罪を晴らそうとします。

その後、麻理夫はロザリオを狙う強盗たちと対決し、窮地を脱します。麻理夫は、金への執着と、過去のトラウマから、冷酷な行動をとる場面も見られますが、一方で、バギとの間に生まれた奇妙な友情のようなものも感じられます。

最終的に、麻理夫はバギの協力を得て強盗たちを倒し、物語は未完のまま幕を閉じます。バギの目的や、麻理夫の未来、そして彼らを取り巻く環境の変化は、読者の想像に委ねられることとなります。

『大地の顔役バギ』は、未完成ながらも、手塚治虫の独特の世界観と、人間の業、自然との共存、復讐と赦しのテーマが凝縮された作品です。ジャガーという野生動物と人間の少年という異種間の交流、そして複雑に絡み合う人間の欲望と自然の力、それらが見事に描かれた作品として、現在でも高い評価を得ています。アニメ化された『大自然の魔獣バギ』とは全く異なる内容で、原作の持つ奥深い魅力を味わうことができます。

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