大塚徹 (詩人)

大塚徹：播磨の叙情詩人、その生涯と業績

大塚徹（1908-1976）は、兵庫県姫路市出身の詩人である。幼少期から類まれな才能と豊かな感性を持ち合わせ、激動の時代を生き抜いた彼の生涯は、まさにドラマチックな物語と言えるだろう。

挫折からの出発：文学への道

質屋を営む家庭に生まれた大塚徹は、旧制姫路中学在学中に水泳事故で脊髄を損傷する。その後、脊椎カリエスも発症し、生涯にわたる闘病生活を余儀なくされる。全身不随となった彼は姫路赤十字病院に入院するが、そこで母から贈られたハーモニカが、彼の新たな表現手段となった。ハーモニカ演奏の腕前はみるみるうちに上達し、やがてミニハーモニカバンドを結成するまでに至る。また、兄から贈られた啄木詩集に触発され、文学への道を志すようになる。

身体的なハンデを負いながらも、大塚徹は旺盛な創作意欲を失うことはなかった。同級生たちと回覧雑誌『椿』を創刊し、文芸活動に本格的に取り組み始める。その後、東京の投稿誌『現代文芸』に作品を発表し、姫路支部の結成にも尽力する。

中央文壇での活躍

1929年、全国詩誌『愛誦』に投稿した「北海の蟹」が西条八十によって特選に選ばれる。続く1930年には、生田春月によって「いたつきの秋」と「生樹を焚く」が特選となり、愛誦の寄稿家として推薦される。現代文芸の全国投稿家五秀才にも選ばれるなど、才能は瞬く間に認められていった。その後も『昭和詩人』『日本詩壇』など、数々の全国詩誌に参加し、戦前戦後を通して精力的に詩作を続ける。

地元播磨での活動と政治的弾圧

地元播磨においても、大塚徹は積極的な活動を行っていた。『椿』解散後、民謡誌『獏』を創刊したり、播磨芸術家協会を結成し雑誌『風と雑草』を創刊するなど、精力的に活動する。しかし、1931年の「八・二六弾圧」に連座し、検挙されるという憂き目に遭う。3ヶ月の勾留の後、不起訴となったものの、『風と雑草』は押収され、幻の雑誌となった。1937年の「神戸詩人事件」にも巻き込まれるが、参考人として調書を取り上げられただけで釈放される。太平洋戦争勃発後も検挙・拘禁されるなど、政治的弾圧は彼の人生に影を落とすことになる。

戦争協力として、日本文学報国会に参加し、軍人援護院にいくつかの曲の作詞を献納するが、後にそれらの作品を廃棄した。この行為には、戦争への後悔と反省の念が込められていたと考えられる。

戦後の活動と多様な表現

戦後、大塚徹は姫路で喫茶店『花鳥庵』を拠点に新濤社を興し、詩誌『新濤』を発行。安藤礼二郎、鳳真治ら多くの文人たちが参加した。散文詩運動「イオム」に対抗するように、短詩の研究を続け、『日本詩壇』で「俳句の革命」というエッセイを連載したり、鳳真治との共著『アトムの目』を出版するなど、創作活動を精力的に続ける。

1952年には処女詩集『古城幻想』を出版。この詩集に板谷隆一が曲をつけた箏曲が、出版記念会で披露される。晩年は作詞活動に比重が移り、「三ツ山音頭」「お城恋しや」「あゝ白鷺城」など、多くの作品を世に送り出す。学校歌の作詞なども手掛け、その才能は多方面にわたって発揮された。

晩年と顕彰

晩年は慢性肝炎を患い、1976年に逝去する。没後、鳳真治らによって追悼詩集『大塚徹・あき詩集』が発行された。近年、姫路城の「平成の大修理」を機に、母校の野里小学校を中心に、大塚徹の顕彰と再評価が進められている。

大塚徹の生涯は、病苦と闘いながらも創作活動を続け、地域文化に貢献した、不屈の精神の持ち主であったことを示している。彼の作品は、今もなお人々の心に響き続けている。

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