大学院重点化

大学院重点化とは

大学院重点化とは、一般的に、大学の教育研究組織を従来の学部中心から大学院中心へと移行させることを指します。これは、大学院を教育研究の中核に据え、より高度な専門教育と研究活動を推進することを目的としています。しかし、国立[[大学]]の予算用語としては、必ずしもこの定義に一致しない場合もあり、大学院講座化や大学院部局化といった言葉も用いられます。

歴史的背景

第二次世界大戦以前には、旧帝国大学が政府の指示のもとで大学院研究施策を実施していました。戦後、有力な私立大学が教員留学プログラム、海外教育拠点の設置、交換留学プログラムなどを通じて大学院の重点化を推進しました。一方、従来の国立[[大学]]では、学部が教育研究組織の基礎とされ、大学院は学部に付加される存在でした。教員は学部に所属し、大学院を兼務する形が一般的でした。当時の国立[[大学]]の予算は学生数を基準に計算されていましたが、学部生と大学院生では一人当たりの予算に大きな差があり、大学院生の方が優遇されていました。

1990年代に入ると、東京大学が先陣を切り、1991年に東京大学法学政治学研究科、1992年に京都[[大学]]大学院法学研究科、1993年に北海道[[大学]]理学研究科がそれぞれ重点化を実施しました。その後、旧帝国大学を中心に大学院重点化が相次ぎ、2000年度までに北海道[[大学]]、東北大学、東京大学、一橋[[大学]]、東京工業大学、名古屋[[大学]]、京都[[大学]]、大阪大学、九州[[大学]]の9大学で全学的な重点化が完了しました。その後も、他の国立[[大学]]や私立大学においても大学院重点化が進められています。例えば、日本医科大学は2001年度に私立医科大学として初めて大学院重点化を宣言し、現在まで継続して大学院の重点的な整備を進めています。

2008年までに、旧帝国大学に加えて、東京医科歯科大学、東京工業大学、一橋[[大学]]、神戸大学、筑波大学、新潟大学、金沢大学、岡山大学、広島大学の計16大学が全学的な大学院重点化を完了しました。

重点化の効果と課題

大学院重点化は、大学院定員を大幅に増加させましたが、その一方で、大学院生の質の低下を招いたという指摘もあります。特に、博士課程の定員増加は、就職先の増加が伴わないまま、博士課程修了者の余剰を生み出し、若手研究者の就職難を引き起こす原因となりました。その後、文部省の予算抑制策により、大学院重点化は一部の大学や医学系研究科など、特例を除いてほとんど実施されなくなりました。結果として、一部の有力国立[[大学]]のみが優遇されるという批判も生じました。

大学院重点化大学一覧

以下は、研究教育において予算を学部から研究科へ重点を移した国立[[大学]]の一覧です。これらの大学では、学部も存続しています。

北海道[[大学]]
東北大学
東京大学
一橋[[大学]]
東京工業大学
名古屋[[大学]]
京都[[大学]]
大阪大学
九州[[大学]]
東京医科歯科大学
神戸大学
筑波大学
新潟大学
金沢大学
岡山大学
広島大学

これらの大学では、全学で博士課程（前期・後期）の大学院が設置されています。ただし、上記以外にも、大学院を設置している国立[[大学]]法人や公立[[大学法人]]、特定分野で大学院を拡充している大学もあります。

予算増を伴わない大学院「改組」

2000年に、積算校費制度が「教育研究基盤校費」に改められ、教員数や学生数に基づいた予算配分方法が変更されました。これにより、予算措置上の重点化の意味は薄れました。この制度変更に伴い、大学院重点化を見送る大学が多く現れましたが、中には、広島大学のように教員組織を大学院に移す大学も存在しました。これは「大学院講座化」と呼ばれます。その後、大学の研究指向を示す組織的な裏付けとして、大学院の改組が進められています。大学院定員の増加を伴わない改組（部局化）も行われ、その際には「学府・研究院・学環」などの新たな組織形態が考案されました。これらは、予算確保を目的とした従来の重点化とは異なり、大学のポリシーやステータスを示す広義の大学院重点化と捉えられています。

まとめ

大学院重点化は、大学の教育研究体制を大学院中心に再編する動きとして、日本の高等教育に大きな影響を与えました。しかし、その過程では、大学院生の質の低下や若手研究者の就職難といった問題も生じました。予算制度の変更に伴い、大学院重点化の形も変化しましたが、大学の研究力を強化するための重要な取り組みであることは変わりません。