大崎水産

株式会社大崎水産

広島県広島市に拠点を置く株式会社大崎水産は、水産加工品の製造を手がける企業です。特に、現在では世界中で親しまれているスティック状のカニ風味かまぼこ、いわゆる「カニカマ」の先駆けの一つとして、その機械化による大量生産技術を確立したことで広く知られています。製造拠点を広島本社工場に集約しながらも、生産量の過半数を海外市場に向けて出荷するなど、グローバルな事業展開を進めています。

沿革

大崎水産の歴史は、1928年（昭和3年）7月に大崎信一氏が旧広島市草津南町で個人営業として創業したことに始まります。その後、1935年（昭和10年）9月には大崎勝一氏が事業を継承。太平洋戦争中の1943年（昭和18年）3月には、戦時下の物資統制令に基づき企業統合が実施され、草津蒲鉾工業組合事務所へ統合されました。終戦後の1946年（昭和21年）2月には企業合同が解散し、個人営業としての活動を再開。翌1947年（昭和22年）5月には工場を草津南1丁目に移転しました。

事業の転機となったのは、1950年（昭和25年）4月です。従来の板蒲鉾などの製造から方向転換し、松茸の形を模した「浜の松茸」をはじめとする特殊珍味蒲鉾の製造を主体としました。そして1964年（昭和39年）4月には株式会社化を果たします。

企業の大きな飛躍を促したのは、1974年（昭和49年）3月に開発されたカニ足風蒲鉾、「フィッシュスチック」です。この製品が後にカニカマとして広く普及する礎となります。1977年（昭和52年）10月には大崎誠一氏が代表取締役社長に就任。翌1978年（昭和53年）5月には「フィッシュスチック」の自動製造ラインが完成し、大量生産が可能となりました。この技術確立を機に、1979年（昭和54年）からは海外への輸出が開始されます。1982年（昭和57年）9月には、現在地である草津港1丁目に本社工場を移転拡張しました。

その後の品質管理強化も特筆されます。1995年（平成7年）には施設改修とHACCPを導入。同年12月には対EU輸出水産食品取扱施設の認定を取得し、EUへの輸出体制を確立します。1997年（平成9年）12月には対米輸出水産食品取扱施設の認定も取得し、海外市場への展開を加速させました。

経営体制では、2001年（平成13年）10月に奥島幸久氏が、2012年（平成24年）12月には大崎桂介氏がそれぞれ代表取締役社長に就任しています。設備投資も継続的に行われ、2001年（平成13年）5月には第二工場が、2018年（平成30年）1月には第三工場が増設されました。

カニカマ「フィッシュスチック」の開発

創業地である草津地区は、かつて草津漁港を中心に栄えた漁師町であり、戦後の一時期には約80軒もの蒲鉾製造会社が軒を連ねていました。このような競争環境の中で生き残るため、大崎水産は伝統的な蒲鉾製造から、より独自性の高い珍味蒲鉾へと事業の軸を移しました。1950年に発売された「浜の松茸」はその成功例の一つです。

「フィッシュスチック」の開発も、こうした枠にとらわれない製品開発の姿勢から生まれました。きっかけは、きゅうりをくり抜いて魚のすり身とカニ肉を詰めた「かに胡瓜」を製造していた際に、製造機に残った魚肉とカニの汁が混ざり合い、カニのような風味を帯びる現象に着目したことでした。

この発見を元に開発が進められました。魚肉を特定の形に成形し加熱固定した後、製麺機のように細くせん切りし、これを棒状に束ねます。表面には紅麹を用いてカニ足のような色合いを着色し、再度加熱固定することで、カニの足肉に似た食感と風味を持つスティック状の蒲鉾が完成しました。これが1974年3月に発売された「フィッシュスチック」です。

さらに、二代目社長である大崎勝一氏が機械いじりを好んだことが、その後の自動製造ラインの開発に繋がります。福山市のキング食品が開発したシート状製品の連続生産方式や、スギヨが製造していた刻みタイプのカニカマを参考にしながら、「フィッシュスチック」の連続自動製造ラインを自社で設計しました。当時の大崎水産敷地に隣接していた地元の小さな鉄工所「草津内燃機」の協力を得て、この革新的な製造ラインを完成させたのです。こうして、「フィッシュスチック」は開発から販売、さらには海外への輸出まで、わずか4年ほどの間にカニカマの代名詞ともいえる存在へと成長しました。

1977年、大崎水産はこの機械製造法について特許を出願しましたが、既に同様の製造法を独自に開発していた複数の機械メーカーとの間で特許を巡る争いが生じ、結局特許権は認められませんでした。しかし、この自動製造技術の確立が、カニカマの国内外への普及に果たした役割は非常に大きいと言えます。

品質への取り組みと海外展開

大崎水産は品質管理にも早期から取り組みました。1995年3月、EUの査察官が日本各地の水産加工工場を査察し、安全性への懸念から一時的に全ての日本産水産食品の輸入を禁止するという事態が発生しました。これに対し、大崎水産はいち早くEU基準に適合するHACCP（Hazard Analysis and Critical Control Point：危害分析重要管理点）方式を導入し、EUによる再審査に合格することで輸出を再開するに至りました。この迅速な対応は、同社の品質管理に対する高い意識を示しています。

現在、同社が製造するカニカマの約6割が海外市場向けですが、その製造はすべて広島本社工場で行われています。これは、品質管理を徹底し、安定した製品供給を行うための戦略です。

貢献とその他の製品

三代目社長の大崎誠一氏は、長年にわたるカニカマの発明と普及、そして世界市場の開拓への貢献が認められ、2013年には農林水産省後援の食品産業功労賞を受賞しています。これは、同社が食品業界、特に練り製品分野において果たした役割の大きさを物語っています。

大崎水産はカニカマ以外にも、以下のような水産加工品を製造しています。

フィッシュキューブ
マリンフィッシュ
シーフラワー
さざれ石
* 浜の松茸

これらの製品も、同社の培ってきた独自の技術と革新的な発想から生まれています。大崎水産は、創業以来培ってきた技術と常に新しいものに挑戦する精神で、水産加工品の可能性を広げ続けています。

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