大川ひとみ

大川ひとみ：原宿ファッションのパイオニア

大川ひとみは、1947年兵庫県芦屋市に生まれました。幼少期からファッション雑誌に親しみ、絵を描くことが好きだった彼女は、「人と違う何かになりたい」という思いから、洋服デザイナーを志すようになりました。成安女子短期大学意匠科では写真部に所属し、ファッション写真への関心を深めました。

1970年、大川は原宿のセントラルアパート内に「MILK」をオープンしました。当時、原宿はアメリカナイズされた雰囲気を持つ若者たちの集まる場所であり、特にセントラルアパートはクリエイターたちが集まる文化の発信地となっていました。大川は、「日本で一番おしゃれ」と感じた原宿、特にクリエイターが集まるセントラルアパートに魅力を感じ、開業を決意しました。資金不足の中、不動産業者の協力を得て、狭い軒下を借りて店をオープンしました。

「MILK」と「MILK BOY」の成功

「MILK」は、「少女の夢」をコンセプトに、可愛らしさと毒っ気を併せ持つデザインで人気を博しました。狭い店内はいつも若者で賑わい、その空間自体も支持を集めました。また、アイドルがレコードジャケットで「MILK」の服を着用したことがきっかけで、芸能人の衣装としても広く知られるようになりました。桜田淳子、南沙織、松田聖子など、多くのアイドルや芸能人が「MILK」を愛用しました。

1974年には、メンズブランド「MILK BOY」を立ち上げました。「MILK BOY」もまた、郷ひろみ、西城秀樹、田原俊彦などの芸能人に愛用され、デヴィッド・ボウイやジョン・レノンも店を訪れたといいます。一時休業を経て再開した「MILK BOY」は、性別や年齢にとらわれない自由な発想をコンセプトに展開されました。

DCブランドとロリータファッションへの影響

1980年代に入ると、「MILK」はDCブランドの一つとして評価されるようになりました。フリルやレースを多用したメルヘンチックなデザインは、多くの若者を魅了しました。「an・an」、「non-no」、「Olive」といったファッション雑誌がDCブランドのスタイルを紹介すると、若者を中心にDCブランドブームが起こり、大川ひとみは三宅一生、山本耀司、川久保玲らと並ぶDCブランドの代表的なデザイナーの一人として知られるようになりました。

また、「MILK」はロリータ・ファッションの源流としても認識されており、そのロマンティックな世界観は、1980年代後半以降のロリータ・ファッションの発展に大きな影響を与えました。「シャーリーテンプル」や「ジェーンマーブル」といったロリータ・ファッションブランドも「MILK」から独立しています。「MILK」は、単に可愛いだけでなく、アナーキーさやミステリアスな感覚も併せ持つ「原宿系」ファッションを代表するブランドとしても評価されています。

裏原系との繋がり

1990年代には、裏原宿と呼ばれる地域からストリートファッションが流行し始めました。藤原ヒロシは高校時代に大川ひとみと知り合い、頻繁に「MILK」のアトリエに出入りしていました。大川は、藤原を通じて高橋盾、NIGOと知り合い、彼らの才能を認め、「NOWHERE」の開店を援助しました。その後、高橋とNIGOはファッションデザイナーとして成功を収めました。

制作スタイルと原宿への想い

大川ひとみは、自身をデザイナーというよりプロデューサーだと考えており、「MILK」のイメージを守りつつ、スタッフの個性や情熱を活かした制作を続けています。原宿という場所も彼女にとって重要な要素であり、原宿で若者たちのエネルギーを感じながら、新たなデザインを生み出しています。「原宿は世界中で一番素敵で、心を自由にしてくれる」と語る大川は、原宿で仕事ができることを幸せに感じています。

大川は、純粋な子どもの感覚や、子どもから大人へと変わろうとする時期のキラキラとした可愛らしさを大切にしながら、流行を追いすぎないデザインを心がけています。また、「MILK BOY」を愛用する大川は、自らは裏方として、「可愛い女の子のために」服を作っていると語ります。取材を避けてきたのは、「MILK」のブランドイメージを大切にするためでした。しかし、結果的に「MILK」の顧客層は若者だけでなく幅広い世代に広がっています。

大川ひとみのデザインは、常に若者の感性に寄り添い、原宿の文化とともに進化し続けています。

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