大平駒槌

大平 駒槌（おおだいら こまつち）

1870年1月25日（明治2年12月24日）に生まれ、1957年（昭和32年）4月11日にその生涯を閉じた大平駒槌は、明治、大正、昭和の三代にわたり、日本の官界、実業界、政界で重要な役割を果たした人物です。広島県において大平儀右衛門の二男として誕生しました。

学業においては、旧制第三高等学校を経て、1896年7月に東京帝国大学法科大学政治学科を卒業し、行政官としての道を歩み始めます。翌1897年3月には農商務省に入省し、福岡鉱山監督署にて鉱山監督官輔の任に就きました。その後、農商務省本省の鉱山局での勤務や、札幌、東京の鉱山監督署での鉱政課長を歴任し、最終的には大阪鉱山監督署長を務めるなど、鉱山行政の分野で経験を積みました。官僚としてのキャリアは1906年3月をもって一区切りとなりました。

官界を離れた大平は、実業界へと転身します。まず、大阪藤田組に入社し、鉱山部の庶務課長を務めながら、関連会社の小坂鉄道の専務取締役、藤田組本体の証券課長、さらには大阪合同紡績の監査役など、複数の要職を兼務しました。約2年間藤田組で活躍した後、1908年12月に同社を退社します。

次なる活躍の場として大平が選んだのは、当時日本を代表する財閥の一つであった住友グループでした。1911年7月に住友総本店に入社すると、本店副支配人、営繕課主任を経て支配人に昇進。さらに、住友の経営の根幹を支える別子銅山を管轄する別子鉱業所の支配人、そして所長を歴任しました。最終的には住友合資会社の理事という重役まで務めましたが、1922年11月に住友を離れることとなります。

その後、満州における日本の権益の中核であった南満州鉄道株式会社（満鉄）へと移ります。1924年11月には満鉄の副社長に就任し、1927年7月までその職を務めました。さらに、1929年8月からはより権威ある副総裁の地位に就き、1931年6月まで満鉄の経営に深く関与しました。

第二次世界大戦終結後、大平は政界へとその活動の場を移します。1945年11月24日、貴族院の勅選議員に任命され、同和会に所属して、戦後日本の国政の一翼を担いました。貴族院議員としては1946年4月13日まで在任しました。また、同年3月19日には枢密顧問官に就任し、1947年5月2日に枢密院が廃止されるまで、重要な諮問機関の一員として活動しました。

逸話

大平駒槌は、戦後首相を務めた幣原喜重郎の親友であったことでも知られています。幣原が1946年1月24日に連合国最高司令官ダグラス・マッカーサーと会談した際、日本国憲法における戦争放棄の条項（後の憲法第九条）について話し合い、マッカーサーがこれに賛同したとされる内容を、幣原自身が大平に語ったといわれています。大平はその話を娘の羽室ミチ子に伝え、娘がその内容を書き残したものが「羽室メモ」として、戦後憲法制定過程を考察する上で貴重な資料の一つとなっています。この逸話は、大平が単に実務家であっただけでなく、戦後の混乱期における日本の重要な政治的な動きにも間接的に関わっていたことを示唆しています。

官僚として鉱山行政に携わり、実業家として日本の主要な企業群で辣腕を振るい、そして戦後には政治家として国の再建に関与するなど、大平駒槌は多岐にわたる分野で活躍した稀有な人物であり、近代日本の発展においてその足跡を残しました。

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