大戦略

大戦略

大戦略（だいせんりゃく、英: Grand strategy）とは、国家の目標を達成するために利用可能な全ての国力を統合的かつ効果的に活用する戦略を指します。この概念は、国家戦略（National strategy）や全体戦略（Total strategy）、統合戦略（Joint strategy）とも呼ばれ、政治的、軍事的、経済的、心理的な要素のすべてを考慮に入れた戦略的な枠組みです。

概要

大戦略は、平和時および戦時における国家の目的を最高位の視点から遂行するための戦略であり、明確な目標と手段の関係を重視します。具体的には、国力の利用が国益の実現にどのように寄与するかが問われます。そのため、軍事力だけでなく、国政術や外交も考慮され、様々な次元の要因が複雑に絡み合います。この多様性が大戦略を理解する上での難しさを増しています。

大戦略の提唱者、ベイジル・リデル＝ハートは、特に第二次世界大戦のような総力戦を反映させる形で、大戦略が国民の資源を効果的に協調させるものであると指摘しています。彼の主張は、短期的な戦争勝利だけを目指すのではなく、戦後の平和を保つためには戦略的な思考が必要であるという点にあります。この考えは、冷戦時代には核抑止を重視する戦略へと進化しました。

原理

戦略目標

大戦略において最も重要な課題は、明確な目的を定めることです。国の安全保障と生存はそれ自体が最重要の利益ですが、国際情勢や国内政治によって目的の内容は変化します。戦略家はこれらの状況を考慮しながら具体的な目標を設定し、国益や脅威を明確化する必要があります。

ウィリアム・マーレーとマーク・グリムズリーは、大戦略がどのように不確実な状況の中で形成されるかを示しました。地理的、歴史的要因、そして国の経済や政治構造がそれに影響を与えるため、この過程は容易ではありません。

戦略手段

大戦略は、国家政策を実施するための手段に注目します。国家における権力は、外交交渉、軍事同盟、経済制裁など多岐にわたり、これらを活用して国の目標を達成します。軍事力はその一要素に過ぎず、平和の維持も等しく重要な課題とされています。ただし、政治力、経済力、心理力、軍事力のバランスが取れた運用が求められます。

事例研究

ペロポネソス戦争

古代ギリシアにおけるペロポネソス戦争は、大戦略の実例の一つです。アテナイが海軍の優位性を活かし、スパルタの陸軍に立ち向かいました。スパルタの直接攻撃を避け、籠城戦に力を入れたアテナイの戦略は、勝利に繋がりました。

イギリス帝国の海の支配

イギリス帝国は、海上の支配を重視した大戦略を採っていました。強力な海軍を持つことで、侵略からの防御を行い、貿易の円滑化にも寄与しました。これは、陸軍の負担を軽減し、持続可能な戦略を構築するのに役立ちました。

第二次世界大戦

この戦争では、連合国はドイツを優先して攻撃する決定を下しました。これは、アメリカが参戦した後に協調して行われた戦略であり、特にドイツの存在が連合国にとって脅威だったためです。

冷戦時代の封じ込め政策

冷戦では、アメリカ合衆国の封じ込め政策が特筆されます。これは、ソビエト連邦の影響力を抑えるための大戦略の一例として考えられています。

中国人民解放軍の規模縮小

1980年代初頭の中国では軍事要素と経済要素の両方を含む大戦略が採用され、人民解放軍の規模を縮小し、民間経済の成長を促進しました。これにより、将来的に軍備の近代化が期待される結果となりました。

このように、大戦略は国の存続や繁栄にかかる重要な戦略的枠組みであり、その研究は国家戦略を形成する上で欠かせない要素となっています。

もう一度検索