大日本帝国憲法第14条

大日本帝国憲法第14条は、国家の非常事態に適用される戒厳制度を規定した条文です。この条項により、天皇が戒厳を宣告する権限を有すると共に、その発動要件や効力は法律によって定められることとされました。実際には、憲法制定以前の太政官布告である「戒厳令」が、憲法施行後も法律としての効力を保ち続け、戒厳に関する実質的な規定となりました。

戒厳制度は、戦時や大規模な内乱が発生し、兵力による国土や特定地域の警備が不可欠となった際に、その地域における行政権、場合によっては司法権の一部または全部を軍隊の指揮下に置き、通常の法律の枠を超えた強力な措置を講じることを可能にする非常措置です。これは、平時における国民の自由や財産が法律によって保護される原則を、軍事行動の必要性に応じて一時的に停止し、軍隊の権力による制約を容認するものです。

戒厳を宣告する権限は、天皇の大権に属しましたが、これは国家の政務に関する大権として行われるべき性質を持つと解釈されました。戒厳が単なる軍事命令に留まらず、国民生活全般に影響を及ぼすため、内閣の責任の下で行われる国務上の行為と見なされたためです。戒厳の宣告が枢密院の諮詢事項とされていたことも、この解釈を支持します。宣告形式は勅令の先例がありますが、将来は詔書によるべきとの見解もありました。非常時には軍司令官が権限を委任されることもあり、区域の指定、変更、解除も天皇の大権に含まれました。

戒厳と区別すべきものに行政戒厳があります。これは、警察力では対応できない治安の乱れに対し、兵力をもって秩序を回復・維持しようとするもので、日比谷焼打事件や関東大震災などで実施されました。行政戒厳は、軍事上の必要に基づく真の戒厳とは異なり、治安維持を目的とし、戒厳の要件を満たさない状況で行われるため、法律に代わる緊急勅令の形式が取られました。

戒厳令に基づく発動要件は、「臨戦の際」「事変の際」「合囲地境の際」と定められ、「事変」は内乱と解釈されました。

戒厳の効果は、戒厳地域における行政権および一部の司法事務が軍隊の管掌に移されること、そして国民の自由権に関する憲法上の保障が停止または制限されることの二点です。具体的には、集会・結社の禁止、言論・出版の制限、通信の検閲などが可能となりました。司法事務の管掌には裁判権そのものは含まれません。

このように、大日本帝国憲法第14条に基づく戒厳制度は、国家の存立を脅かす事態に際し、軍部に非常的な権限を集中させ、国民の自由や権利を大幅に制限することを認める、強力な制度でした。

もう一度検索