大来皇女

大来皇女：悲劇の皇女とその歌声

大来皇女（おおくのひめみこ）、別名大伯皇女は、天武天皇の皇女であり、日本の歴史において重要な人物です。その生涯は、皇室の栄華と悲劇が複雑に絡み合った物語として知られています。

誕生と出自

大来皇女は、斉明天皇7年（661年）、天智天皇一行が筑紫に向かう途上、大伯（おおく）の海上で誕生しました。母は大田皇女で、天智天皇の皇女であり、後の持統天皇の同母姉にあたります。同母弟には、悲劇的な最期を迎える大津皇子もいます。この出自からも、大来皇女の生を受けた環境が、皇室の中枢に深く関わっていたことがわかります。

大田皇女は、天智天皇6年（667年）2月27日以前に亡くなったと推測されます。同日に、斉明天皇と間人皇女が合葬された小市岡上陵の記述があり、大田皇女は陵の前の墓に葬られたと『日本書紀』には記されています。

伊勢斎宮としての生涯

天武天皇2年（673年）4月14日、大来皇女は父である天武天皇によって、斎王制度確立後の初代斎王（斎宮）に任命され、泊瀬斎宮に入斎しました。翌年、天武天皇3年（674年）10月9日には伊勢神宮へと下向しています。伊勢斎宮としての奉仕は、皇室と神道信仰を繋ぐ重要な役割を担っていました。

天武天皇4年（675年）には、他の皇女である十市皇女や阿閇皇女（後の元明天皇）も伊勢神宮に参詣しており、当時の皇室の信仰の厚さが窺えます。朱鳥元年（686年）には、多紀皇女、山背姫王、石川夫人も伊勢神宮に派遣されています。

しかし、同年の10月3日、大津皇子が謀反の罪で処刑されると、大来皇女は11月16日に伊勢神宮を退下し、都へ帰りました。これは、大津皇子との血縁関係、そして斎宮という立場を考慮すると、大きな精神的打撃であったと考えられます。大宝元年12月27日（702年1月）、大来皇女は亡くなりました。

夏見廃寺と大来皇女

三重県名張市の夏見廃寺は、大来皇女の発願によって神亀2年（725年）に建立された昌福寺であると、『薬師寺縁起』に記されています。これは、大来皇女が仏教にも篤く信仰していたことを示唆する重要な史料です。

『万葉集』に残る歌

大来皇女は、『万葉集』に6首の歌を残しています。それらの歌は、同母弟である大津皇子の死を悼む悲痛な歌であり、姉としての深い愛情と、突然の別れへの深い悲しみを表現しています。その歌は、大津皇子がひそかに伊勢神宮に訪れた際や、大津皇子の死後、帰京途上、そして大津皇子の移葬の際に詠まれたと推測されています。これらの歌は、大来皇女の心情を深く理解し、歴史を学ぶ上で貴重な資料となっています。

例えば、大津皇子が伊勢神宮にひそかに下向してきた際に詠まれたとされる歌では、夜遅くまで待ち続けた姉の心情が切々と歌われています。また、大津皇子薨去後の歌では、伊勢神宮への訪問を思い返しながら、今はもう会えない悲しみが表現されています。これらの歌は、単なる歴史的事実以上の、人間の深い感情を伝える力を持っています。

血縁関係と小説

大来皇女の父は天武天皇、母は大田皇女です。同母弟に大津皇子がいることは先に述べたとおりです。大来皇女の生涯とその悲しみは、小説『大津皇子―二上山を弟（いろせ）と』（上島秀友）にも描かれており、フィクションを通じて、より深くその人物像に迫ることができます。

まとめ

大来皇女は、皇室の内部で起こった悲劇を体験し、その苦悩を歌に残した女性でした。彼女の生涯は、皇室の権力闘争、信仰、そして家族愛といった様々な要素が複雑に絡み合った、日本の歴史における重要な一断面を私たちに示しています。彼女の歌は、現代においても、私たちに深い感動を与え、歴史への理解を深めてくれます。

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