大森正之

大森 正之（おおもり まさゆき）は、1943年1月に生まれた日本の生物学研究者です。主に東京大学および埼玉大学で教鞭を執り、生命科学分野において重要な研究成果を挙げました。

その研究活動の中心は、シアノバクテリア（藍藻）が示す多様な環境応答現象を分子レベルで解き明かすことにありました。分子生物学や分子・細胞生理学の専門知識を駆使し、シアノバクテリアが光や乾燥といった外部環境の変化にどのように適応するのか、その情報伝達経路や遺伝子発現制御のメカニズムを探求しました。特に、地球環境の維持、例えば砂漠緑化などに繋がる応用研究も視野に入れており、シアノバクテリアの持つ光合成能力や乾燥耐性といったユニークな生理機能を理解することは、持続可能な社会の実現に向けた重要な基盤研究となりました。

大森氏は1973年に東京大学より理学博士の学位を授与されています。その学歴は、1961年の東京都立日比谷高等学校卒業に始まり、1966年には埼玉大学文理学部理学科を卒業。1968年には東京大学大学院理学系研究科修士課程を修了しています。

研究者、教育者としてのキャリアは、1968年に東京大学海洋研究所助手としてスタートしました。その後、1988年に東京大学海洋研究所助教授、1992年には東京大学教養学部教授へと昇進。1994年からは東京大学大学院総合文化研究科教授として、広域科学専攻内の生命環境科学系環境応答論講座を担当し、多くの後進の指導にあたりました。2004年に東京大学を定年退職し、同年6月には東京大学名誉教授の称号を授与されています。

東京大学退職後も研究・教育活動は継続され、2004年4月からは埼玉大学理学部分子生物学科教授、2006年からは同大学院理工学研究科教授を務めました。さらに2008年からは中央大学理工学部教授として、2013年3月に退任するまで教育・研究に貢献しました。

主要な研究成果は多数の学術論文として発表されており、特にシアノバクテリアの細胞内情報伝達物質であるcAMP（サイクリックAMP）に関する研究は特筆されます。アデニル酸シクラーゼ遺伝子の同定や性状解析、cAMP受容タンパク質の機能解析を通じて、シアノバクテリアの光応答、細胞運動性、窒素飢餓応答などにおけるcAMPシグナルの重要な役割を明らかにしました。また、乾燥耐性メカニズムや挿入配列の動態解析、さらには植物の根粒形成におけるシグナル伝達に関する共同研究など、幅広いテーマで生物の環境適応戦略に関する知見を提供しています。これらの研究は、微生物から高等植物に至る生物の生命現象の普遍性と多様性を理解する上で、貴重な貢献をしています。

もう一度検索