大橋宗英
江戸時代後期に活躍した将棋指し、大橋宗英（おおはし そうえい）は、宝暦6年（1756年）に生まれ、文化6年11月17日（1809年12月23日）に没しました。
将棋三家の一つ、大橋分家の六代目当主として家督を継ぎ、のちに将棋界の最高位である九世名人を襲名しました。大橋分家からは二人目の名人となります。
その圧倒的な強さから、当時の人々からは「実力十三段」や「鬼宗英」といった異名で称されました。将棋史においても、江戸時代の名人の中でも随一の強さを持つと評価されています。また、その独自の棋風や革新的な大局観は、後の将棋に大きな影響を与え、「近代将棋の祖」とも称されています。
宗英は幼名を七之助といいました。根岸鎭衞が記した『耳袋』には、宗英の幼少期に関する逸話が残されています。五代宗順の庶子として生まれたため、幼くして里子に出されていましたが、その将棋における非凡な才能、すなわち「天然の上手」であることが認められ、家に戻されて家督を継ぐことになったと伝えられています。
将棋指しとして頭角を現したのは、安永2年（1773年）に宗英と改名してからのことです。当初は鵜飼弥五郎、福島竜治、井出主税といった在野の有力棋客たちと多くの対局を重ね、実力を磨きました。
安永7年（1778年）、宗英は初めて江戸幕府への御城将棋に出仕します。この時の相手は伊藤家の五代目当主、伊藤宗印でした。手合いは角落されでしたが、宗英は宗印を圧倒しました。同年11月には、大橋本家の当主である大橋印寿（後の九代大橋宗桂）とも藤堂和泉守邸で角落されの手合いで対局し、ここでも圧勝を収めました。
安永8年（1779年）には、五代宗印と左香落されで対局し、宗英は新しく編み出した戦術である「鳥刺し」を用いて勝利を収めました。この年の御城将棋では、実父である五代宗順との対局も行われ、左香落されの手合いで宗順に勝利しています。
天明2年（1782年）と天明3年（1783年）の御城将棋では、それぞれ五代宗印、そして九代宗桂（当時は印寿）と右香落されの手合いで対局しました。五代宗印には勝利しましたが、九代宗桂には敗れています。
天明4年（1784年）の御城将棋では、後に六代宗看となる伊藤印嘉と右香落ちの手合いで対局し、勝利しました。翌天明5年（1785年）には六段に昇段を果たし、九代宗桂と右香落されで対局して勝利を収めています。
その後も宗英は、後輩の六代宗看を常にリードし、名人候補の筆頭であった九代宗桂との間で多くの名勝負を繰り広げました。寛政元年（1789年）には七段に昇段。同年、九代宗桂は中断していた将棋所を再興し、名人となります。同年の御好（将軍の前で行われる対局）では、宗桂と左香落されで対局し、持将棋となりました。この頃、宗英は八段を許されたと考えられています。
寛政2年（1790年）の御城将棋では、宗桂と平香交りの手合いで対局しました。この平手戦は「稀代の一局」と称される歴史的な名局となり、宗英が勝利を収めました。
寛政4年（1792年）10月3日、宗英の父である五代大橋宗順が60歳で没しました。
寛政7年（1795年）の御城将棋では六代宗看に香落ちで勝利。寛政10年（1798年）には宗看との手合いは平香交りまで進みましたが、平手番での対局で宗英が勝利しています。
寛政11年（1799年）8月14日、九代宗桂が没し、大橋宗英が九世名人を襲名しました。歴代の名人は将軍に詰将棋の作品（献上図式）を献上するのが通例でしたが、宗英の代でこの伝統は絶えました。「詰め物なら君仲（桑原君仲）にでもできる」と語ったという伝承がありますが、その真偽は定かではありません。
文化3年（1806年）の御城将棋では、宗英の子であり、この年が御城将棋初出勤となった英長（後の七代大橋宗与）と父子対局を行いました。手合いは宗英の飛車落ちで、英長が勝利を収めました。
文化6年（1809年）11月17日、宗英は御城将棋の日に出勤しましたが、急に病に倒れ、対局せずに退席しました。帰宅後、まもなく息を引き取ったと伝えられています。この日の内調済みであった伊藤看理（六代宗看の子）との飛車落ちでの対局が、宗英の絶局となりました（結果は看理の勝利）。宗英の墓所や戒名は不明とされています。
榊原橘仙斎の著書『将棋営中日記』の中で、一世から十一世までの歴代家元の中で最も強い名人と謳われています。その棋風は「守りを固める」など、負けにくい堅実な将棋が特徴とされます。また、飛車先交換の有利性など、それまでの常識を覆すような大局観の革新をもたらした人物でもあります。これらの功績から、「近代将棋の祖」と称されることもあります。
宗英の嫡子である七代大橋宗与は、父ほどの棋才には恵まれませんでしたが、宗英の著書の出版事業に尽力するなど、将棋の普及に努めました。また、幕末の強豪として知られる大橋柳雪は、宗英の晩年の弟子であり、七代宗与の養子となりました。柳雪は一時的に大橋宗英の名を名乗ったこともありますが、後に廃嫡されています。六代宗英の卓越した棋才は、この柳雪を経て、幕末の「棋聖」と称される天野宗歩に受け継がれていくことになります。
将棋三家の一つ、大橋分家の六代目当主として家督を継ぎ、のちに将棋界の最高位である九世名人を襲名しました。大橋分家からは二人目の名人となります。
その圧倒的な強さから、当時の人々からは「実力十三段」や「鬼宗英」といった異名で称されました。将棋史においても、江戸時代の名人の中でも随一の強さを持つと評価されています。また、その独自の棋風や革新的な大局観は、後の将棋に大きな影響を与え、「近代将棋の祖」とも称されています。
宗英は幼名を七之助といいました。根岸鎭衞が記した『耳袋』には、宗英の幼少期に関する逸話が残されています。五代宗順の庶子として生まれたため、幼くして里子に出されていましたが、その将棋における非凡な才能、すなわち「天然の上手」であることが認められ、家に戻されて家督を継ぐことになったと伝えられています。
将棋指しとして頭角を現したのは、安永2年（1773年）に宗英と改名してからのことです。当初は鵜飼弥五郎、福島竜治、井出主税といった在野の有力棋客たちと多くの対局を重ね、実力を磨きました。
安永7年（1778年）、宗英は初めて江戸幕府への御城将棋に出仕します。この時の相手は伊藤家の五代目当主、伊藤宗印でした。手合いは角落されでしたが、宗英は宗印を圧倒しました。同年11月には、大橋本家の当主である大橋印寿（後の九代大橋宗桂）とも藤堂和泉守邸で角落されの手合いで対局し、ここでも圧勝を収めました。
安永8年（1779年）には、五代宗印と左香落されで対局し、宗英は新しく編み出した戦術である「鳥刺し」を用いて勝利を収めました。この年の御城将棋では、実父である五代宗順との対局も行われ、左香落されの手合いで宗順に勝利しています。
天明2年（1782年）と天明3年（1783年）の御城将棋では、それぞれ五代宗印、そして九代宗桂（当時は印寿）と右香落されの手合いで対局しました。五代宗印には勝利しましたが、九代宗桂には敗れています。
天明4年（1784年）の御城将棋では、後に六代宗看となる伊藤印嘉と右香落ちの手合いで対局し、勝利しました。翌天明5年（1785年）には六段に昇段を果たし、九代宗桂と右香落されで対局して勝利を収めています。
その後も宗英は、後輩の六代宗看を常にリードし、名人候補の筆頭であった九代宗桂との間で多くの名勝負を繰り広げました。寛政元年（1789年）には七段に昇段。同年、九代宗桂は中断していた将棋所を再興し、名人となります。同年の御好（将軍の前で行われる対局）では、宗桂と左香落されで対局し、持将棋となりました。この頃、宗英は八段を許されたと考えられています。
寛政2年（1790年）の御城将棋では、宗桂と平香交りの手合いで対局しました。この平手戦は「稀代の一局」と称される歴史的な名局となり、宗英が勝利を収めました。
寛政4年（1792年）10月3日、宗英の父である五代大橋宗順が60歳で没しました。
寛政7年（1795年）の御城将棋では六代宗看に香落ちで勝利。寛政10年（1798年）には宗看との手合いは平香交りまで進みましたが、平手番での対局で宗英が勝利しています。
寛政11年（1799年）8月14日、九代宗桂が没し、大橋宗英が九世名人を襲名しました。歴代の名人は将軍に詰将棋の作品（献上図式）を献上するのが通例でしたが、宗英の代でこの伝統は絶えました。「詰め物なら君仲（桑原君仲）にでもできる」と語ったという伝承がありますが、その真偽は定かではありません。
文化3年（1806年）の御城将棋では、宗英の子であり、この年が御城将棋初出勤となった英長（後の七代大橋宗与）と父子対局を行いました。手合いは宗英の飛車落ちで、英長が勝利を収めました。
文化6年（1809年）11月17日、宗英は御城将棋の日に出勤しましたが、急に病に倒れ、対局せずに退席しました。帰宅後、まもなく息を引き取ったと伝えられています。この日の内調済みであった伊藤看理（六代宗看の子）との飛車落ちでの対局が、宗英の絶局となりました（結果は看理の勝利）。宗英の墓所や戒名は不明とされています。
榊原橘仙斎の著書『将棋営中日記』の中で、一世から十一世までの歴代家元の中で最も強い名人と謳われています。その棋風は「守りを固める」など、負けにくい堅実な将棋が特徴とされます。また、飛車先交換の有利性など、それまでの常識を覆すような大局観の革新をもたらした人物でもあります。これらの功績から、「近代将棋の祖」と称されることもあります。
宗英の嫡子である七代大橋宗与は、父ほどの棋才には恵まれませんでしたが、宗英の著書の出版事業に尽力するなど、将棋の普及に努めました。また、幕末の強豪として知られる大橋柳雪は、宗英の晩年の弟子であり、七代宗与の養子となりました。柳雪は一時的に大橋宗英の名を名乗ったこともありますが、後に廃嫡されています。六代宗英の卓越した棋才は、この柳雪を経て、幕末の「棋聖」と称される天野宗歩に受け継がれていくことになります。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。