大相撲熱戦十番

大相撲熱戦十番：ラジオで彩られた大相撲中継の黄金時代

1973年5月から1987年3月まで、文化放送をキー局として放送された『大相撲熱戦十番』。この番組は、大相撲本場所における幕内後半戦の熱戦を、毎日17時台に生中継するという、当時としては画期的な試みでした。18年ぶりに文化放送が復活させた大相撲中継は、単なるスポーツ中継にとどまらず、ラジオリスナーを魅了する独特のスタイルで人気を博しました。

好角家以外も魅了した、革新的な番組演出

従来の大相撲中継とは一線を画す『大相撲熱戦十番』の特徴は、何と言ってもその演出にあります。単なる実況中継ではなく、進行役を配置することで、相撲に詳しくないリスナーにも親しみやすく、より楽しめる番組作りを目指しました。18年前の中継で実況を担当していた細田勝アナウンサーが起用され、取組の合間には力士のプロフィールやエピソードなどを軽妙な語り口で紹介。当時、朝のワイド番組『ダイナミックジャンボ』でも活躍していた細田アナウンサーの、親しみやすい語り口調は、スポーツ中継というよりはパーソナリティ番組のような雰囲気を醸し出し、NHKの大相撲中継とは異なる魅力を打ち出しました。

さらに、NHKに先駆けて支度部屋からのリポートや、花道、砂かぶりの様子などを伝えるなど、多彩な情報を織り交ぜることで、臨場感あふれる中継を実現。これらの工夫が功を奏し、番組開始当初の視聴率は文化放送がNHKを上回り、特に女性の視聴率で大きな差をつけることに成功しました。これは、これまで大相撲中継を聴いたことのない層を取り込むことに成功したことを意味します。

大相撲の雰囲気を盛り上げる、こだわりの演出

番組は軽快な呼び込み太鼓で始まり、エンディングにはオリジナルの相撲甚句と、場所ごとに異なるテーマソングが使用されました。スポンサーである中央住宅も、番組限定のCMを制作するなど、関係者全員の努力によって大相撲独特の風情が演出されました。

放送枠の確保のため、文化放送では平日15時～18時のワイド番組を17時まで短縮。17時からのニュース番組『ニュース・パレード』も一時休止されました。番組を放送しない系列局には、『ニュース・パレード』を裏送りするなど、放送局間の調整にも工夫が見られました。週末もレギュラー番組を休止または裏送りし、番組放送の円滑な運営を図っていました。放送末期にはスポンサーの都合で平日放送時間が短縮され、中継できる取組数が減ってしまったことは残念でした。

裏側で支えた、アナウンサーたちの努力

番組制作の裏側では、アナウンサーたちの努力が光ります。担当アナウンサーの細田勝氏は、準備期間がわずか10日間しかなかったこと、相撲経験者が自分しかいなかったことを明かしています。実況練習は国技館の客席で行われ、極秘裏に進められたといいます。また、細田氏は朝の生放送番組を担当していたため朝稽古の取材ができず、若手アナウンサーに取材を任せ、その情報をあたかも自分が取材したかのように話すこともあったそうです。支度部屋リポートを担当した吉田照美氏は、陸奥親方から廻しを締めさせられ、稽古を見学していた男性から「お尻が見える」と指摘されたというエピソードを語っています。このように、番組はアナウンサーたちの献身的な努力によって支えられていました。力士の作戦を事前に録音するという、ユニークな取り組みもあったようです。

番組終了と、その後の大相撲ラジオ中継

『大相撲熱戦十番』は、高い人気を誇りましたが、年間90日しか開催されない大相撲の本場所という性質上、スポンサーの撤退が続き、1987年に放送終了となりました。その後、大相撲中継の権利はTBSラジオに移行し、若貴ブームを背景に『まった無し!大相撲』がスタートしますが、ブームの終息とともに終了しました。現在でも大相撲中継の権利はTBSラジオが保有しています。

『大相撲熱戦十番』は、単なるスポーツ中継にとどまらず、ラジオというメディアの可能性を追求した、革新的な番組でした。その軽妙な演出と、アナウンサーたちの努力によって作り上げられた番組は、多くのリスナーの記憶に刻まれていることでしょう。

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