大統領官邸 (アイルランド)

アイルランド大統領官邸：歴史と象徴の地

アイルランド大統領官邸（Áras an Uachtaráin）は、ダブリンの広大なフェニックス・パーク内に位置し、アイルランドの歴史と深く結びついた象徴的な建物です。元々はヴァイセリーガル・ロッジと呼ばれ、95の部屋を有するこの官邸は、1751年にナタニエル・クレモンによって設計されました。

起源と変遷

18世紀半ば、パークレンジャーでありアマチュア建築家でもあったナタニエル・クレモンがこの建物を設計しました。1780年代にはイギリスのアイルランド総督が夏の別荘として購入し、その後ヴァイセリーガル・ロッジとして、総督が1年の大半を過ごす場所となりました。社交シーズンにはダブリン城が主な居住地として使用されました。

フェニックス・パークにはかつて、ヴァイセリーガル・ロッジ、首席秘書官ロッジ、次席書記ロッジの3つの官邸が存在しました。現在、首席秘書官ロッジはディアフィールドと呼ばれ、駐アイルランド米国大使の官邸となっています。次席書記ロッジは取り壊され、長年にわたりローマ教皇庁大使館として使用されていました。

興味深いことに、一部の歴史家は、大統領官邸の庭園前廊が、ワシントンD.C.のホワイトハウスを設計したアイルランド人建築家ジェームズ・ホーバンに影響を与えたと主張しています。しかし、実際には、このポルチコはホーバンの当初の設計には含まれておらず、後にベンジャミン・ラトローブによってホワイトハウスに追加されたものです。

知事公邸から大統領官邸へ

1911年、ジョージ5世とメアリー・オブ・テックの訪問のために大規模な増築が行われました。1922年のアイルランド自由国成立に伴い、アイルランド総督は廃止されました。新たな王室代表である総督をより小さな住居に配置する計画でしたが、反英愛条約IRAからの殺害予告があったため、一時的にヴァイセリーガル・ロッジが使用されました。当時、この建物は「アンクル・ティムの小屋」という愛称で呼ばれていました。

1932年、ドヴナル・ウア・ブハーラが新総督に就任し、ダブリン南側の私邸に移るまで、ヴァイセリーガル・ロッジはアイルランド自由国総督の住居として使用されました。

1938年、アイルランド初代大統領ダグラス・ハイドが一時的に居住しましたが、その間、敷地内に新しい大統領官邸を建設する計画が進められていました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、取り壊しの危機に瀕していたため、取り壊しと新居の設計が保留され、「Áras an Uachtaráin」と改名されました。1945年までに、大統領府と密接な関係を持つようになり、取り壊されることはありませんでしたが、老朽化が進んでいたため、大規模な改修と一部の再建が必要となりました。その後も、修復工事が随時行われています。

ハイド大統領は本館の1階の居住区に住んでいましたが、後の大統領たちは、1911年にジョージ5世の訪問のために建てられた母屋に併設された新居に移りました。しかし、1990年にメアリー・ロビンソン大統領が古い本館に戻り、その後のメアリー・マッカリース大統領は1911年の棟に住んでいました。

現在の役割

首相や政府閣僚、裁判官、司法長官、検事総長、国防軍の上級士官などが、大統領官邸で大統領から印鑑を受けます。また、大統領委員会や国務院の会議場としても使用され、警察機動隊の本部も置かれています。公共事業局が大統領の私室を提供しています。

2005年には日本の明仁天皇と美智子皇后が、2013年には安倍晋三首相夫妻が、大統領官邸を訪問し、マイケル・D・ヒギンズ大統領夫妻と会談しました。

アイルランド大統領官邸は、単なる建物ではなく、アイルランドの歴史と文化を体現する生きた証人です。その壮麗な姿は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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