大谷弘至

俳人 大谷弘至

大谷弘至（おおたに ひろし）氏は、1980年、福岡県に生まれた現代俳句を代表する一人です。福岡市で生を受けましたが、幼少期の3歳頃には朝倉市へと移り住み、自然豊かな環境で育ちました。

俳句への道と研鑽

大学進学のために上京し、早稲田大学に入学。当初はロシア文学、特に文豪ドストエフスキーの世界に傾倒し、その研究を志していました。しかし、学術的な壁に直面したことから研究分野を見直し、やがて正岡子規以前の日本の古俳諧へと興味を移し、その研究を深めていきます。

大学時代から俳句にも親しみ、いくつかの結社を経て、2004年には長谷川櫂氏が主宰する俳誌「古志」に入会。ここで本格的に俳句創作に打ち込むこととなります。「古志」での活躍は目覚ましく、入会からわずか2年後の2006年には、同誌において権威ある飴山實俳句賞を受賞し、その才能が高く評価されました。

2010年には、現代俳句の先鋭を紹介するアンソロジー『超新撰21』（邑書林）に作品が収められ、次世代を担う俳人として広く認知されるようになります。

「古志」主宰として

大谷氏の俳壇における地位を決定づけたのは、2011年1月の出来事です。師である長谷川櫂氏から俳誌「古志」の主宰の座を譲り受けたのです。当時30歳という若さでの名門俳誌の主宰就任は、俳壇において史上最年少記録であり、大きな話題となりました。これにより、大谷氏は若きリーダーとして、俳壇に新たな風を吹き込む存在として注目を集めることになります。

俳句活動と並行して研究活動も続け、主宰就任と同じ2011年3月には、二松学舎大学大学院博士後期課程を満期修了しています。

句風と主要句集

大谷氏の句風は、古来の伝統や形式を深く踏まえる「古格」を重んじている点に特徴があります。これは、氏が大学で古俳諧の研究に励んだことと無関係ではないでしょう。その典雅で奥行きのある表現は、現代俳句の中に確固たる個性として輝いています。代表的な一句として、「波寄せて詩歌の国や大旦」が挙げられます。

これまでに二冊の句集を刊行しています。

第一句集『大旦』（角川学芸出版、2010年）
第二句集『蕾』（花神社、2019年）

これらの句集には、氏の古格を踏まえつつも現代的な感性が光る作品群が収められています。

研究活動と著作

句作にとどまらず、俳句研究者としても活発な活動を行っています。特に、江戸時代の俳人である小林一茶に関する研究は多岐にわたり、一般向けの著書も多数出版しています。

『小林一茶』 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典（角川ソフィア文庫、2017年）
『楽しい孤独 小林一茶はなぜ辞世の句を詠まなかったのか』（中公新書ラクレ、2021年）

これらの著書は、研究者としての深い知見を基にしながらも、一般読者にも分かりやすく、小林一茶という俳人の新たな魅力を伝えています。

その他の活動

また、テレビ番組に出演するなど、メディアを通じて俳句や古典の魅力を伝える活動も行っています。2021年および2022年には、NHKの「視点・論点」にて小林一茶の生き方について解説し、好評を博しました。

参考文献としては、矢羽勝幸氏による「大谷弘至作家論 古典の上に立つ新しさ」（『俳壇』2011年5月号）や、宇多喜代子氏の著書『戦後生まれの俳人たち』（毎日新聞社、2012年）などでその業績が紹介されています。俳誌「古志」の公式サイトや大谷氏の公式サイトも存在し、その活動の広がりを示しています。

若くして俳壇のリーダーとなり、伝統と現代を融合させる句作、そして精力的な研究活動によって、大谷弘至氏は今後の俳壇においてますます重要な存在となるでしょう。

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