大谷栄一

大谷 栄一

大谷 栄一（おおたに えいいち）は、1968年に生まれた日本の宗教学者であり、特に宗教社会学を専門分野としています。現在、佛教大学社会学部の教授として教鞭を執り、近代日本の宗教と社会の関係性を精力的に研究しています。

経歴

大谷氏は、東洋大学文学部印度哲学科で学び、1990年に卒業しました。その後、同大学大学院社会学研究科社会学専攻の博士後期課程に進学し、社会学の視点から宗教を深く掘り下げました。1999年には「近代日本の『国家と宗教』の研究 1880~1920年代の日蓮主義運動の場合」という研究で博士（社会学）の学位を取得。この博士論文は、その後の氏の研究の基盤となる、近代日本における国家権力と宗教、特に日蓮主義運動という具体的な事例を通して、両者の複雑な関係性を解明しようとするものでした。

博士課程修了後、1999年より公益財団法人国際宗教研究所の研究員として専門的な研究活動を開始。さらに2005年には南山宗教文化研究所の研究員となり、研究者としての経験を積みました。2009年には佛教大学社会学部現代社会学科の准教授として教育・研究の場を移し、2016年からは同教授として、後進の指導にあたるとともに、自身の研究を深めています。

研究分野と業績

大谷氏の主要な研究テーマは、近代日本における「国家と宗教」の関係、そして仏教の近代史です。国家が宗教をどのように位置づけ、あるいは管理しようとしたのか、またそれに対して様々な宗教者や運動がどのように応答し、あるいは抵抗したのかを、社会学的な視点から分析しています。特に、明治から大正期にかけて隆盛を極めた日蓮主義運動は、近代日本の思想状況や社会運動を理解する上で重要な鍵となります。大谷氏は、この日蓮主義運動を詳細に研究することで、近代日本の思想水脈や、国家と宗教の相克、そして社会変革を目指す宗教者の思想と行動のあり方を明らかにしました。その成果は、単著『近代日本の日蓮主義運動』（法蔵館、2001年）や、『日蓮主義とはなんだったのか　近代日本の思想水脈』（講談社、2019年）といった著作に結実しています。

また、近代仏教という視座から、戦争、アジア、社会主義といった同時代の喫緊の課題に仏教がどのように向き合ったのかを考察した『近代仏教という視座 戦争・アジア・社会主義』（ぺりかん社、2012年）も重要な著作です。これらの著作を通して、近代日本社会における宗教、特に仏教の役割と変容、そしてそれが社会や思想に与えた影響を、多角的に描き出しています。

大谷氏の研究は個人での単著にとどまらず、多くの研究者との共同作業も重視しています。宗教学、社会学、仏教史など、幅広い分野の研究者との共編著や編著も多数あります。『構築される信念 宗教社会学のアクチュアリティを求めて』、『ソシオロジカル・スタディーズ 現代日本社会を分析する』、『地域社会をつくる宗教』、『ブッダの変貌　交錯する近代仏教』、『近代仏教スタディーズ 仏教からみたもうひとつの近代』、『基礎ゼミ 宗教学』、『日本宗教史のキーワード 近代主義を超えて』、『日本仏教再入門』など、その内容は宗教社会学の理論的な探求から、現代社会における宗教の役割、地域社会と宗教、さらには仏教史の再検討といった幅広いテーマに及んでいます。これらの共同研究は、氏の研究領域の広がりと、学術界におけるネットワークの厚さを示しています。

受賞

その学術的な貢献は高く評価されており、複数の賞を受賞しています。2001年には日本宗教学会賞、2002年には中村元賞という、宗教学分野における権威ある賞に輝きました。また、所属大学である佛教大学からも2009年に学術奨励賞を、さらに2020年には立正大学望月学術賞を受賞するなど、その研究活動は学会内外で広く認められています。

大谷栄一氏は、近代日本の国家と宗教という複雑なテーマを、綿密な文献研究と社会学的な視点から解明し続ける、この分野の第一人者の一人です。その著作や共同研究は、現代社会における宗教のあり方や、過去から現代へと続く思想の潮流を理解する上で、貴重な示唆を与えています。

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