中村元賞

中村元賞（なかむらはじめしょう）は、日本の学術界、特に人文科学分野における若手研究者の育成と奨励を目的として設立された権威ある学術賞です。

この賞は、世界的に著名な仏教学者であり、哲学、比較思想研究においても多大な業績を残した中村元博士（1912-1999）の偉業を讃え、その学問的遺産を後世に伝えるために創設されました。

主催は宝積比較宗教・文化研究所であり、仏教研究に限定せず、哲学、宗教といった広範な学問領域を対象としていた点が特徴です。これは、中村元博士自身の学際的な研究姿勢を反映したものであり、多様な視点からの研究を奨励する意図がありました。

授与の対象となるのは、創造性に富み、学術的に貢献度の高い若手研究者による著作または論文数編です。これにより、将来を担う優れた才能を発掘し、その研究活動を支援することが目指されました。

本賞は1993年に第1回授賞が行われ、日本の学術振興に貢献しましたが、2014年10月をもってその役割を終えました。その後、中村元記念館によって新たに設立された「中村元東洋思想文化賞」へと継承され、中村元博士を記念する学術顕彰の精神は新たな形で引き継がれています。

なお、中村元博士の名前を冠した学術賞としては、中村元東方研究所が主催する「中村元東方学術賞」も存在します。こちらも「中村元賞」と通称されることがあるため、区別する際には主催団体や設立経緯を確認することが重要です。

本賞の設立から終了までの間に、以下の通り、人文科学の様々な分野で活躍する多くの優れた若手研究者が受賞しています。

第1回（1993年）
田中 久文：著作『九鬼周造 - 偶然と必然』の功績が評価された。
中島 隆博：「荀子における〈正しい言語の暴力とそのほころび〉」を含む複数の論文に対して。
第2回（1994年）
深沢 英隆：「宗教言語の生誕」を含む複数の論文に対して。
前川 輝光：著作『マックス・ヴェーバーとインド』に対して。
第4回（1996年）
頼住 光子
第5回（1997年）
梁 賢恵
第6回（1998年）
一ノ瀬 正樹：著作『人格知識論の生成』の功績が評価された。
加藤 隆
第8回（2000年）
岡野 潔
蓑輪 顕量：著作『中世初期南都戒律復興の研究』に対して。
第9回（2001年）
奥山 倫明：著作『エリアーデ宗教学の展開』の功績が評価された。
三橋 正：著作『平安時代の信仰と宗教儀礼』に対して。
第10回（2002年）
大谷 栄一：著作『近代日本の日蓮主義運動』の功績が評価された。
第13回（2005年）
深井 智朗：著作『超越と認識　20世紀神学史における神認識の問題』に対して。
第15回（2007年）
* 菊地 達也：著作『イスマーイール派の神話と哲学』の功績が評価された。

これらの受賞者リストからもわかるように、中村元賞は、日本の仏教、哲学、宗教学研究の発展に寄与する多くの研究者を世に送り出す一助となった賞であったと言えるでしょう。

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