大谷能生

大谷能生：音楽、文学、批評の交錯する世界

大谷能生（おおたに よしお）氏は、1972年生まれの評論家、サックス奏者、そしてラッパーである。慶應義塾大学アート・センター訪問員という肩書きも持ち、音楽、文学、批評という異なる領域を縦横無尽に渡り歩く稀有な存在だ。青森県八戸市出身で、中学生時代にジャズの魅力に開眼。青森県立八戸高等学校卒業後、横浜国立大学教育学部へ進学するも中退。大学時代にはモダンジャズ研究会に所属し、音楽活動の礎を築いた。

音楽活動：ジャズを軸とした多様な表現

18歳からサックス奏者としての活動を開始。数々のバンドに参加し、自身の音楽性を磨いてきた。Small Size Pendelton、anagram chance、Unit Gramphone、Politico3s、そして八品幸史郎氏とのユニットshiken-bishaなど、多様な音楽集団への参加を通して、ジャズ、テクノ、インプロビゼーションなど、幅広い音楽ジャンルを経験している。近年では、MJQT（大谷能生(a-sax)、吉田隆一（b-sax）、坂口光央（key））といった自身のグループでも活動。ソロ作品も発表しており、その音楽活動は多岐に渡る。

文学・批評活動：鋭い視点と深い洞察

音楽活動と並行して、評論家としても精力的に活動。1996年から2002年にかけて、仲間と共に音楽批評誌『EsPresso』を創刊し編集・執筆。同誌は、複製技術を前提とした音楽制作に対応する批評の確立を目指し、独自の視点で音楽シーンを切り取っていた。現代音楽、ジャズ、テクノなど多様なジャンルを題材に、独自の音楽批評を展開。数多くのアーティストへのインタビュー、音楽イベントへの参加、そして独自のレクチャー活動にも力を入れている。

菊地成孔氏との共著も多数。東京大学でのジャズ史講義をまとめた『東京大学のアルバート・アイラー』シリーズや、マイルス・デイヴィスを深く掘り下げた『M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究』、商業音楽史を解説した『憂鬱と官能を教えた学校』などは高い評価を得ている。

また、単著『貧しい音楽』では、現代音楽における「貧しさ」という概念を独自の視点で論じ、『散文世界の散漫な散策』では20世紀の批評を考察するなど、音楽にとどまらない多様なテーマを取り上げている。さらに、植草甚一、平岡正明といった作家に関する著作や、ジャニーズ文化論にも取り組むなど、その関心の広さは著しい。

レクチャー活動：音楽と文学を繋ぐ架け橋

大谷氏の活動で特筆すべきは、精力的なレクチャー活動だ。「大谷能生のフランス革命」、「大谷能生の“真夏の夜のジャズ”」、「大谷能生のジャズ・モダニズム」といったイベントを企画・開催。ジャズ史、音楽理論、現代音楽、そして文学作品などをテーマに、自身の深い知識と独自の解釈を交えた講義で聴衆を魅了してきた。

ラジオ番組『WANTED!』では、菊地成孔氏と共にパーソナリティを務めるなど、メディアにも積極的に登場。その活動は、音楽と文学、そして批評という異なる領域を有機的に結びつけ、独自の知的空間を創り出している。

まとめ

大谷能生氏は、サックス奏者、ラッパー、評論家という多様な顔を持つ稀有な存在。音楽家としてライブ活動や楽曲制作を行い、評論家としては鋭い視点で音楽や文学を批評する。そしてレクチャー活動を通じて、音楽と文学の橋渡し役を務める。その活動は、現代社会における音楽と文学の在り方、そして批評の役割について、常に問いかけ続けていると言えるだろう。今後の活動からも目が離せない。

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