大野和男

大野 和男

大野 和男（おおの かずお）は、1909年6月13日に生まれ、1983年6月2日に逝去した日本の建築学者、そして卓越した教育者でした。北海道大学の名誉教授として、特に北海道における建築学の発展と建築界の形成に、計り知れない功績を残した人物です。

若き日々から異分野での経験

大野和男は、東京帝国大学工学部建築学科で建築学を深く学び、1932年に卒業後は同大学院へ進学しました。建築の道を志した当初から、その学識は高く評価されていました。大学院在籍中や修了後には、旧制水戸高等学校や日本大学予科で非常勤講師を務め、早くも教育者としてのキャリアをスタートさせています。

しかし、彼の経歴にはユニークな一面があります。1939年から1945年にかけての戦時中、彼は建築の分野を一時離れ、中島飛行機にて飛行機設計技師として勤務しました。この、建築とは全く異なる分野での実務経験は、その後の彼の建築観や問題解決のアプローチに何らかの影響を与えた可能性も考えられます。終戦後、1946年から1949年までは東邦建築工業の専務取締役を務め、建設実務の世界にも深く関わりました。

北海道大学での貢献

1949年、大野和男は北海道大学に教授として迎え入れられました。これは、彼のキャリアにおける大きな転機であり、北海道の建築史においても重要な出来事となりました。彼は北海道大学に建築学科を創設する上で中心的な役割を果たし、その後の北海道における建築教育の礎を築きました。教育者としては、多くの学生を指導し、研究者としても精力的に活動を展開しました。

特筆すべきは、北海道大学工学部校舎の大規模な増改築設計を約10年間（1961年頃から1971年頃と推測される）にわたり指揮したことです。総面積7万平方メートルにも及ぶ広大な校舎全体の設計を統括することは、極めて困難かつ責任の重い事業であり、彼の技術力とリーダーシップを示すものです。

研究面では、1953年に工学博士号を取得した「モルタル及びコンクリートの乾燥収縮と亀裂防止に関する研究」が特に知られています。この研究は、当時の建築材料における重要な課題に取り組み、その成果は1953年度の日本建築学会賞を受賞するなど、学界からも高く評価されました。

大学運営にも携わり、1968年から1970年にかけては工学部長を務め、教育・研究体制の充実に尽力しました。

退官後の指導的役割

1973年に北海道大学を退官し、翌1974年には名誉教授となりましたが、大野和男の北海道における活動はむしろ活発になりました。彼は北海道建築センターの設立に深く関わり、その基盤確立に決定的な役割を果たしました。積雪寒冷地という北海道の特殊な気候条件に対応した建築技術の向上は喫緊の課題であり、北海道建築センターはこの課題に取り組む上で中核となる組織です。彼はこのセンターの理事長として、寒冷地建築に関する研究開発、技術指導、標準化の推進に尽力し、北海道の建築水準を飛躍的に向上させました。

また、彼は様々な公的委員会の要職を歴任し、建築行政や都市計画にも大きな影響力を行使しました。1963年には北海道建築審査会会長に就任したのを皮切りに、1966年には札幌オリンピック冬季大会施設専門委員会副委員長として、国際的なイベントの施設整備に貢献。退官後も、1974年には北海道特定開発行為審査会会長、1979年には全国建築審査会協議会会長を務めるなど、その知見と経験は広く求められました。これらの活動を通じて、彼は北海道の建築界全体を牽引し、その健全な発展を主導する存在となりました。

受賞と評価

長年にわたる教育、研究、実務、そして行政への多大な貢献は、高く評価されました。1973年には北海道科学技術賞を、1975年には北海道新聞文化賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いています。これらの受賞は、彼の業績が単なる学術的な範囲にとどまらず、北海道の社会や文化の発展にも寄与したことを示しています。

大野和男は、教育者として多くの後進を育て、研究者として学術の進歩に貢献し、実務家として大規模プロジェクトを成功させ、さらに公共の立場から北海道の建築行政と技術水準の向上に指導的な役割を果たしました。彼の残した功績は、今日の北海道の建築環境に確固たる基盤を与えています。

参考文献

『大野和男先生の御業績』（大野和男先生勲二等瑞宝章受賞祝賀会 1981）
「名誉会員大野和男先生」（『建築雑誌』1983.8月号）
『大野和男先生追悼集』（大野和男先生追悼の会 1984）

関連項目

天雷 (航空機)

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