大野弘幸
大野 弘幸（おおの ひろゆき）氏は、1953年7月11日、千葉県千葉市に生まれました。日本の化学者として、高分子化学およびイオン液体の科学を専門分野とし、工学博士の学位を取得しています。現在、東京農工大学の特別招聘教授、名誉教授を務めるほか、日本学術振興会学術システム研究センターの所長として、日本の学術振興に貢献しています。
大野氏の父は、現在のNTTの前身である電信電話公社に勤務していました。幼少期は近所の千葉公園で親しみ、日々過ごしたといいます。1960年4月、千葉市立新宿小学校に入学。1966年4月には千葉市立新宿中学校に進学し、この頃から理科への関心を深めました。中学時代は陸上部に所属し、中学3年生の時には千葉市の陸上競技大会の走高跳で優勝するも、膝を悪くしたため県大会への出場は見送りました。
県立高校への進学は叶わず、1969年4月に私立市川学園高等部に入学。理系進学コースを選択し、学業に励みました。1972年4月、早稲田大学理工学部応用化学科に入学。合格発表の日に理工ボート部の勧誘を受け、すぐに入部を決めたことで、受験勉強で鈍った体を鍛え直すため活動に参加しました。しかし、夏に戸田市の競艇場で行われた合宿中に左膝を負傷し、入院する事態となります。左膝半月板損傷と診断され、手術により損傷部分を切除。術後はしばらく松葉杖での生活を送りました。大学3年生になる頃には、既に土田英俊教授の研究室に出入りし、熱心に学んでいました。4年生で正式に研究室に配属され、酸化還元活性を持つポリマーの合成に取り組んだのです。
1976年3月に早稲田大学理工学部を卒業後、直ちに大学院に進学。博士前期課程ではポリマーコンプレックスの研究に従事しました。1978年3月に修士課程を修了すると、翌月から博士後期課程に進み、ポリエーテルの研究、中でも細胞膜やリポソームとの相互作用に関する研究を開始しました。学位論文「Molecular Assembly concerned with Macromolecules、高分子が関与する分子集合」を提出し、1981年3月に早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程を修了。工学博士の学位を取得しました。1981年4月からは、早稲田大学の特別研究員として土田研究室に所属し、高分子によるリン脂質リポソームの機能制御に関する研究を進めたほか、高分子イオン伝導体やリポソームを利用した酸素運搬体の研究にも携わりました。
1983年4月から1985年3月までの2年間は、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学の高分子科学科に博士研究員として招聘され、John Blackwell教授のもとで鶏の老化に伴うプロテオグリカン類の構造変化に関する研究に取り組みました。1985年4月に帰国し、早稲田大学の助手に採用され、再び土田研究室で研究活動を行いました。
1988年8月、東京農工大学工学部の高分子工学科に助教授として着任しました。1990年4月からは文部省学術国際局研究助成課の学術調査官を兼任し、科学研究費（科研費）の配分審査や現地調査に携わりました。審査制度改革にも関与し、特に科研費申請の電子化移行期における重要な役割を担い、1992年夏まで文部省での業務を行ったのです。
学会活動にも積極的に参加し、1996年から1997年には電気化学会の理事に就任。2001年から2007年まで常任理事として学会の運営に貢献しました。高分子学会でも2002年から2010年まで理事を務め、2008年には関東支部長、2010年には副会長に就任するなど、活発な活動を展開しました。
学内でのキャリアも進み、1997年1月に東京農工大学教授に昇任。教育・研究活動に加え、大学運営の責任も増していきました。2007年には共生科学技術研究院副研究院長を経て、2008年からは研究院長として2年間、農学部と工学部が融合した同研究院を率いました。また、同時期には東京農工大学図書館長も務め、大学図書館の運営改善に尽力しました。2010年から3年間は副工学部長として工学部長を補佐。2013年からは工学部長および工学研究院長として工学部全体の運営を統括しました。そして2017年からは東京農工大学の学長に就任し、3年間にわたり大学全体の運営責任者としてその舵取りを担いました。
2020年3月に学長を任期満了で退任。同時に定年により東京農工大学を退職しましたが、引き続き特別招聘教授として工学部での研究活動を再開しました。また、2020年4月からは日本学術振興会学術システム研究センター所長に就任し、特に科学研究費補助金や特別研究員制度の充実・促進に貢献しています。
大野氏の研究は、早稲田大学助手時代に土田英俊教授のもとで行ったリン脂質リポソームの高分子化や、高分子とリポソームの相互作用解析から始まりました。米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学でのポスドク時代には、Blackwell教授のもとで鶏プロテオグリカン類の加齢に伴う分子構造変化を研究しました。
東京農工大学着任後は、極性高分子を用いた固体電解質や、高分子中でのタンパク質の酸化還元反応などの研究を進め、次第に「イオン」に関わるテーマへと研究の中心が移っていきました。特にイオンのみで構成される液体として近年注目されている「イオン液体」の研究は、1996年頃から本格的に開始しています。機能的なイオン液体の新規合成法や電解質としての特性に関する研究に加え、世界で初めてイオン液体の高分子化を成功させました。さらに、天然に存在する20種類すべてのアミノ酸をイオン液体化することにも世界で初めて成功するなど、独創的な研究を展開しています。
また、水と混合すると特定温度で急激な相分離を起こす下限臨界溶解温度（LCST）型の相転移を示すイオン液体を発見し、これを新規機能材料として精力的に研究しました。ごく少量の水を添加したイオン液体をタンパク質の溶媒として利用する研究は、変性したタンパク質の構造を回復させる可能性を秘めているとして、注目を集めています。植物バイオマスを穏やかな条件で溶解させるイオン液体の開発も進めており、含水状態のバイオマスを加熱せずに溶解させることに成功するなど、持続可能な社会に貢献する研究も行っています。
2008年 - Paul Walden Award
2014年 - 高分子科学功績賞
大野研究室
日本学術振興会学術システム研究センター
略歴
大野氏の父は、現在のNTTの前身である電信電話公社に勤務していました。幼少期は近所の千葉公園で親しみ、日々過ごしたといいます。1960年4月、千葉市立新宿小学校に入学。1966年4月には千葉市立新宿中学校に進学し、この頃から理科への関心を深めました。中学時代は陸上部に所属し、中学3年生の時には千葉市の陸上競技大会の走高跳で優勝するも、膝を悪くしたため県大会への出場は見送りました。
県立高校への進学は叶わず、1969年4月に私立市川学園高等部に入学。理系進学コースを選択し、学業に励みました。1972年4月、早稲田大学理工学部応用化学科に入学。合格発表の日に理工ボート部の勧誘を受け、すぐに入部を決めたことで、受験勉強で鈍った体を鍛え直すため活動に参加しました。しかし、夏に戸田市の競艇場で行われた合宿中に左膝を負傷し、入院する事態となります。左膝半月板損傷と診断され、手術により損傷部分を切除。術後はしばらく松葉杖での生活を送りました。大学3年生になる頃には、既に土田英俊教授の研究室に出入りし、熱心に学んでいました。4年生で正式に研究室に配属され、酸化還元活性を持つポリマーの合成に取り組んだのです。
1976年3月に早稲田大学理工学部を卒業後、直ちに大学院に進学。博士前期課程ではポリマーコンプレックスの研究に従事しました。1978年3月に修士課程を修了すると、翌月から博士後期課程に進み、ポリエーテルの研究、中でも細胞膜やリポソームとの相互作用に関する研究を開始しました。学位論文「Molecular Assembly concerned with Macromolecules、高分子が関与する分子集合」を提出し、1981年3月に早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程を修了。工学博士の学位を取得しました。1981年4月からは、早稲田大学の特別研究員として土田研究室に所属し、高分子によるリン脂質リポソームの機能制御に関する研究を進めたほか、高分子イオン伝導体やリポソームを利用した酸素運搬体の研究にも携わりました。
1983年4月から1985年3月までの2年間は、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学の高分子科学科に博士研究員として招聘され、John Blackwell教授のもとで鶏の老化に伴うプロテオグリカン類の構造変化に関する研究に取り組みました。1985年4月に帰国し、早稲田大学の助手に採用され、再び土田研究室で研究活動を行いました。
1988年8月、東京農工大学工学部の高分子工学科に助教授として着任しました。1990年4月からは文部省学術国際局研究助成課の学術調査官を兼任し、科学研究費（科研費）の配分審査や現地調査に携わりました。審査制度改革にも関与し、特に科研費申請の電子化移行期における重要な役割を担い、1992年夏まで文部省での業務を行ったのです。
学会活動にも積極的に参加し、1996年から1997年には電気化学会の理事に就任。2001年から2007年まで常任理事として学会の運営に貢献しました。高分子学会でも2002年から2010年まで理事を務め、2008年には関東支部長、2010年には副会長に就任するなど、活発な活動を展開しました。
学内でのキャリアも進み、1997年1月に東京農工大学教授に昇任。教育・研究活動に加え、大学運営の責任も増していきました。2007年には共生科学技術研究院副研究院長を経て、2008年からは研究院長として2年間、農学部と工学部が融合した同研究院を率いました。また、同時期には東京農工大学図書館長も務め、大学図書館の運営改善に尽力しました。2010年から3年間は副工学部長として工学部長を補佐。2013年からは工学部長および工学研究院長として工学部全体の運営を統括しました。そして2017年からは東京農工大学の学長に就任し、3年間にわたり大学全体の運営責任者としてその舵取りを担いました。
2020年3月に学長を任期満了で退任。同時に定年により東京農工大学を退職しましたが、引き続き特別招聘教授として工学部での研究活動を再開しました。また、2020年4月からは日本学術振興会学術システム研究センター所長に就任し、特に科学研究費補助金や特別研究員制度の充実・促進に貢献しています。
研究分野
大野氏の研究は、早稲田大学助手時代に土田英俊教授のもとで行ったリン脂質リポソームの高分子化や、高分子とリポソームの相互作用解析から始まりました。米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学でのポスドク時代には、Blackwell教授のもとで鶏プロテオグリカン類の加齢に伴う分子構造変化を研究しました。
東京農工大学着任後は、極性高分子を用いた固体電解質や、高分子中でのタンパク質の酸化還元反応などの研究を進め、次第に「イオン」に関わるテーマへと研究の中心が移っていきました。特にイオンのみで構成される液体として近年注目されている「イオン液体」の研究は、1996年頃から本格的に開始しています。機能的なイオン液体の新規合成法や電解質としての特性に関する研究に加え、世界で初めてイオン液体の高分子化を成功させました。さらに、天然に存在する20種類すべてのアミノ酸をイオン液体化することにも世界で初めて成功するなど、独創的な研究を展開しています。
また、水と混合すると特定温度で急激な相分離を起こす下限臨界溶解温度（LCST）型の相転移を示すイオン液体を発見し、これを新規機能材料として精力的に研究しました。ごく少量の水を添加したイオン液体をタンパク質の溶媒として利用する研究は、変性したタンパク質の構造を回復させる可能性を秘めているとして、注目を集めています。植物バイオマスを穏やかな条件で溶解させるイオン液体の開発も進めており、含水状態のバイオマスを加熱せずに溶解させることに成功するなど、持続可能な社会に貢献する研究も行っています。
主な受賞
2008年 - Paul Walden Award
2014年 - 高分子科学功績賞
外部リンク
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日本学術振興会学術システム研究センター
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