大野進

大野 進

1944年6月29日、大野進は日本のレコーディング・エンジニアとして生まれました。日本の音楽産業において、特に音作りの面で重要な役割を果たした人物であり、そのキャリアを通じて数々の歴史的な録音に携わりました。2010年9月21日に逝去されています。

彼の名前は、特に井上陽水氏の伝説的なアルバム『氷の世界』（1973年）を手がけたエンジニアとして広く知られています。この作品は、日本のLPレコード史上初めて100万枚を超えるミリオンセラーを達成し、当時の日本のポピュラー音楽界に大きな影響を与えました。この成功は、アーティストの才能はもちろんのこと、エンジニアとしての彼の卓越した技術と感性が結実した結果と言えるでしょう。

キャリアと貢献

大野進は1963年、ポリドール株式会社（現在のユニバーサル・ミュージック）に入社し、録音部でプロとしてのキャリアをスタートさせました。早くから頭角を現し、1970年には菅原洋一氏の代表曲『今日でお別れ』の制作に関わり、同曲が日本レコード大賞を受賞する栄誉に貢献しています。

『氷の世界』での画期的な成功後も、日本のレコーディング環境の整備と質の向上に情熱を注ぎました。1976年には、日本で初めてのリゾート型スタジオとして知られる「IZUスタジオ」の設立プロジェクトに参加し、その運営を担当。アーティストがより集中して音楽制作に取り組める環境づくりを目指しました。1978年には「KRSスタジオ」の設立にも参加しています。

その後、1987年にKRSスタジオが閉鎖されると、「スタジオ・キーストーン」の専務取締役に就任。さらに1996年には自身で「株式会社ファロス」を設立し、代表取締役に就任するなど、経営者としてもスタジオ運営に深く関わりました。

また、業界の発展と後進の育成にも尽力しました。社団法人日本音楽スタジオ協会では相談役、日本ミキサー協会では顧問といった要職を歴任。日本の音楽録音業界全体の技術レベル向上や地位向上に貢献しました。

主なエンジニア作品

大野進がエンジニアとして関わった代表的な作品には、前述の井上陽水『氷の世界』のほか、高橋洋子氏の楽曲『もう一度逢いたくて』などがあります。これらの作品における彼の音作りは、当時の音楽シーンにおいて高い評価を得ました。

エンジニア以外の活動

多才な一面として、いくつかの楽曲では本人名義での歌唱も行っています。漫画『もーれつア太郎』のイメージソングである『ニャロメのうた』（1969年）、『おれと結婚しろニャロメ』（1970年、露木美穂氏との共演）、テレビアニメ『じゃりン子チエ』のオープニングテーマ曲『バケツのおひさんつかまえた』（1981年、中山千夏氏との共演）などがあります。これらはエンジニアとしての活動とは異なりますが、彼のユニークなキャリアの一部を形成しています。

大野進は、卓越したレコーディング・エンジニアとしての技術と、日本の音楽スタジオ環境の整備への貢献、そして業界団体での活動を通じて、日本のポピュラー音楽史に確かな足跡を残しました。彼が手掛けた音源は、今なお多くの人々に聴き継がれています。

参考

* 「私とマイクロフォン」第5回 ノイマンわが命 - archive.today（2013年5月3日アーカイブ分）

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