天ヶ須賀のいもち行事とは？意味をやさしく解説

天ヶ須賀のいもち行事

概要

天ヶ須賀のいもち行事は、三重県三重郡富洲原町に存在した伝統的な虫送りの農業行事で、特に戦前の時代に行われました。毎年8月の初めに「天ヶ須賀いもち祭り」として知られ、農民たちが参加していました。この行事は形式的なものではなく、年ごとに稲の害虫の発生状況を鑑みて実施される日が決定されていました。

祭りの準備と実施

祭りでは、地元の農家が協力して、特別なたいまつを製作しました。このたいまつは、長い竹を中心にして、菜穀を巻き付け、それを麦藁で包み込み、直径約30cm、長さ約4mの大きさに仕上げられました。これらのたいまつは、虫を追い払うために火を灯し、田んぼを練り歩くためのものでした。

祭当日は、締め太鼓と大鉦の音が響き渡り、「いのと」と呼ばれる場所からスタートしました。行列は3本松、平田紡績工場を経由して戻り、その後、高松や南福崎方面まで進みました。最終的には、高松村の境界まで達するルートです。このように移動する中で、各農家は自分の農地にたいまつを運び、稲作における害虫の駆除を願って火を灯しました。

農夫たちの姿

祭りの最中、天ヶ須賀の田園地帯には、たいまつの明かりに照らされた農夫たちが見受けられました。彼らは点火されたたいまつを手にしながら、自らの田んぼを巡り、炎が消えるまで火を見守っていました。また、祭りを見物する人々は、煙や熱気に包まれながら、自宅へと引き返す様子が印象的でした。

いもち行事の変遷

このいもち行事は1935年（昭和10年）頃まで行われていましたが、その後の時代の変化と共に姿を消していきました。また、戦後には誘蛾灯に取って代わられ、農業技術の進歩により伝統的な行事は廃れました。現在では、当時の様子を知る人は少なく、地域の文化としての記憶のみが残されています。

参考文献

- 四日市市編編『四日市市史第5巻 (史料編民俗)』四日市市、1995年。
- 『四日市市立富洲原小学校創立100周年記念誌』。
- 『郷土史考』。

天ヶ須賀のいもち行事