天柱石

天柱石

富山県南砺市、かつての平村にあたる上松尾地区に、ひときわ異彩を放つ巨大な岩石がそびえ立っています。その名も「天柱石（てんちゅうせき）」。古来よりこの五箇山地方に暮らす人々から神聖視されてきたこの巨岩は、現在では南砺市の天然記念物として大切に守られています。

地質学的特徴

天柱石は、およそ1,500万年前の海底火山活動によって形成されたと考えられています。その地質は安山岩質の角礫凝灰岩という、火山噴出物などが固まってできた岩石です。同じ時期に、近くを流れる梨谷川沿いには「千畳岩」と呼ばれる、これまた特徴的な岩地形が生まれたとされています。

歴史と伝承に彩られた巨岩

この五箇山地域には、奈良時代頃から山岳修験道が広まり、人形山や金剛堂山といった山々が修行の場として利用されるようになりました。伝承によると、天柱石もまた、この頃に金剛堂山で修行を積む行者が、座禅などを行うために用いたと伝えられています。

地元の上松尾集落では、天柱石を親しみを込めて「立石（たていし）」と呼んでいます。この「立石」にまつわる伝説として、武蔵坊弁慶がこの巨大な岩を担いで来たものの、あまりの重さに力尽きて下ろしたという話が残されています。さらに、岩の表面にある赤色は、弁慶が背中を岩にこすりつけた際についた血の色だとか、弁慶が尻餅をついた跡が岩の根元にあるすり鉢状の地形になった、といった興味深い伝承も語り継がれています。

また、後年に付け加えられたとも考えられている伝説として、近くの蓑谷村にある大蛇伝説で知られる縄ヶ池と、この天柱石の根元が地下水脈で繋がっているという話があります。そのため、池やこの岩を汚したり、 disrespectfulな行いをしたりすると、たちまち雨が降り出すと言われました。この伝承が転じて、立石に登ると「雨が降る」あるいは「天気が急に変わる」と恐れられるようになり、特に秋の稲刈りなど収穫の時期には「絶対に登ってはならない」と言い聞かされてきたといいます。

歴史的文献に見る天柱石

天柱石の名が広く知られるきっかけの一つとなったのが、江戸時代の紀行文『二十四輩順拝図会』での記述です。そこには、「城端の東南四里に松尾村という場所があり、そこに天柱石という奇妙な巌石がある」と紹介されています。さらに「その高さ数百丈（非常に高いことを示す表現）で、一年を通して常に雲を纏っており、岩の全体を見られる者は滅多にいない。頂上には大きな木が生えているというが、あまりに高く雲に隠れて、何の木か判別できない」とその様子が記されています。また、紅葉の時期には「錦の柱が大空に突き立っているかのよう」とその美しさを描いた版画絵も、天柱石を有名にするのに一役買いました。

同じく江戸時代、天明6年（1786年）頃に宮永正運によって著された『越の下草』にも、天柱石に関する記述が見られます。「松尾村立石」の項には、「石の高さは拾七八丈（約53メートル）、周囲もまた弐十丈（約76メートル）ほどあろうか。形は仏像の背にある舟形の光背が、西に向かって立っているように見える」と、より具体的な数値や形状が記されています。そして『二十四輩順拝図会』と同様に、「頂上には一本の木が見えるが、高すぎて何の木かはわからない」と触れられています。さらに、『越の下草』には、石の根元南側に深い穴があり、役の行者がこの石の上で修行をしていた時、天から童子が降りてきて供物を捧げ、石の根元の穴からは竜女が現れて燈明を捧げたという、より詳しい伝説が記録されています。

現在のアクセス

現在、天柱石を訪れるには、まず国道304号からたいらスキー場のクロスカントリーコース方面へ向かう道に入ります。そこから天柱石へ至るルートは二通りあります。一つは東へ向かい、旧田代集落を経由する北回りのルート（市道天池線）ですが、こちらは未舗装の砂利道です。もう一つは、上松尾集落を通る南回りのルート（市道立石線）で、こちらは全線アスファルト舗装されており、天柱石までの案内標識も整備されている、主要なアクセス路となっています。

約1500万年の時を経て、地域の信仰や伝説、歴史書の記述といった人々の営みと深く結びついてきた天柱石。単なる巨大な岩石ではなく、五箇山の歴史と文化、そして神秘を今に伝える貴重な存在と言えるでしょう。

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