天湯河板挙

天湯河板挙とは

天湯河板挙（あめのゆかわたな）は、日本の古代神話に由来する神または豪族であり、『日本書紀』などの文献に記録されています。彼は、天湯河桁命や天湯川田奈命などとも呼ばれています。彼の物語は、多くの神話や伝説と同様に、興味深い寓意とともに受け継がれています。

物語の概要

伝説によれば、天湯河板挙は、垂仁天皇の子である誉津別皇子（ほむつわけのいみこ）の言葉を引き出すための重要な役割を果たしました。誉津別皇子は、三十歳になっても言葉を話すことができず、まるで幼い子供のように泣いてばかりいました。この状況を憂いた天皇は、鵠（くぐい）の姿を目にした時、皇子が初めて片言を発したことに喜びを感じ、天湯河板挙にその鵠を捕まえるよう命じました。

天湯河板挙は、その命令を受けて出雲国や但馬国まで鵠を追いかけ、見事に捕獲しました。1ヶ月後、彼は鵠を天皇に献上しました。誉津別皇子はその鵠と遊んでいるうちに言葉を話せるようになり、彼の「唖（おし）は治った」とされ、天湯河板挙は報酬として「鳥取造」の姓を授けられました。その後、鳥取部、鳥養部、誉津部といった部族も制定されました。

『古事記』との比較

『古事記』にも類似の物語が存在しますが、こちらでは捕獲を行った人物が異なり、山辺大鶙が登場します。彼は多くの苦労を重ねて諸国を旅し、罠を仕掛けて鵠を捕らえましたが、皇子の言葉が回復したのは、天皇の夢のお告げや曙立王の占いによるものでした。このように、物語の構造や要素が微妙に異なることから、神話の解釈にはさまざまな見解があることがわかります。

考証と学術的な視点

日本の神話の研究者である折口信夫は、「天湯河板挙」という名前の背景に特別な意味があると考察しました。彼は、水を用いた「禊（みそぎ）」の行為に関連づけ、温かい水があたる場所を「湯川」と名付け、その名が天湯河板挙に結びついている可能性を示唆しています。一方で、吉田東伍は「桁」という言葉が古い地名であることに注目し、天湯河板挙の名前の由来を解読しました。

また、谷川健一は、金属精錬と鳥に関する伝承との関連性を指摘し、天湯河板挙が金属器の精錬に携わる人物であった可能性について詳しく述べています。これにより、彼の役割は単なる捕獲の神にとどまらず、古代の生活と文化の中での重要な存在であったことが浮かび上がります。

後裔とその神社

天湯河板挙の後裔については、『新撰姓氏録』でその存在が言及されており、彼の家系は中央に位置する鳥取造氏で、天武天皇12年（683年）に「連」の姓を賜っています。このように、天湯河板挙は神話上の人物であると同時に、実在の血脈を持つ人物とも考えられています。

彼を祀る神社は日本各地に存在し、特に鳥取神社や天湯川田神社などが有名です。これらの神社は、彼の重要性を物語る場所であり、今日も多くの人々が訪れる著名な聖地となっています。このように、天湯河板挙はその神話的背景のみならず、歴史的にも深い影響を及ぼした存在であることがわかります。

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