天然の美

天然の美

1979年（昭和54年）5月21日に発売された『天然の美』は、日本の音楽家、近田春夫にとって記念すべき初のソロ・アルバムです。近田は当時、自身が率いるバンド、近田春夫&ハルヲフォンとしての活動を停止したばかりでした。ハルヲフォン在籍中の1977年にソロシングル「ロキシーの夜」を発表していましたが、本作はソロ名義での本格的なキャリアの幕開けとなる一枚です。アルバム発売に先立つこと1ヶ月、同年4月21日にはソロ2枚目となるシングル「エレクトリック・ラブ・ストーリー」をリリースしており、その勢いを引き継ぐ形での発表となりました。

制作背景とスタイル

本作の制作にあたり、近田はそれまでのバンド活動とは異なるスタイルを取り入れました。彼は自身を「歌手」および「職業作家」と位置づけ、1曲の作詞、作曲、編曲を単独で兼任するスタイルを避けました。これは、外部の才能を積極的に迎え入れ、様々なクリエイターとのコラボレーションを通じて、新たな音楽性を追求するという意欲的な姿勢の表れと言えます。その結果、当時の日本の音楽シーンで活躍していた、多方面にわたる著名な作家や編曲家たちが制作に参加することとなりました。

参加アーティスト・作家陣

アルバムのサウンドを彩る編曲には、特にイエロー・マジック・オーケストラ（YMO）が注目されます。彼らは先行シングル曲である「エレクトリック・ラブ・ストーリー」を含む、計4曲を手がけています。近田自身も複数の楽曲で編曲を担当しているほか、研ナオコのヒット曲「かもめはかもめ」で知られる若草恵が参加。CD盤のボーナストラックには矢野誠が起用されました。

作詞陣には、漫画家の楳図かずお、コピーライターのさがらよしあき、竜真知子、小説家・作詞家の山口洋子、小林和子といった多彩な顔ぶれが揃いました。CD盤追加曲にはちあき哲也も名を連ねています。

作曲陣もまた、日本の音楽史に名を刻む錚々たるメンバーが集結しました。近田が深く尊敬する筒美京平、元ザ・ワイルドワンズの加瀬邦彦、元ジャッキー吉川とブルーコメッツで「学園天国」などを手がけた井上忠夫（のちの井上大輔）、元ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童、そして杉本真人（「響わたる」名義でも活動）といった、ジャンルを超えた実力派が参加しています。もちろん、近田自身も複数の楽曲で作曲を手がけています。

収録曲

本作に収録された楽曲は以下の通りです。

Side A

• - エレクトリック・ラブ・ストーリー 作詞：楳図かずお、作曲：近田春夫、編曲：イエロー・マジック・オーケストラ
• - 震えて眠れ 作詞：さがらよしあき、作曲：宇崎竜童、編曲：近田春夫
• - 何故かアップ・サイド・ダウン 作詞：近田春夫、作曲：加瀬邦彦、編曲：イエロー・マジック・オーケストラ
• - 罪なレディ 作詞：竜真知子、作曲：筒美京平、編曲：近田春夫
• - V.T.R.SHADOW 作詞：近田春夫、作曲：井上忠夫、編曲：若草恵

Side B

• - エレクトリック・ラブ・ストーリー 作詞：楳図かずお、作曲：近田春夫、編曲：若草恵
• - ワン・シーン 作詞：山口洋子、作曲：近田春夫、編曲：イエロー・マジック・オーケストラ
• - 哀愁専科 作詞：近田春夫、作曲：杉本真人、編曲：若草恵
• - プシー・キャット・ラブ 作詞：近田春夫、作曲：筒美京平、編曲：イエロー・マジック・オーケストラ
• - HALF AND HALF 作詞：小林和子、作曲：加瀬邦彦、編曲：近田春夫

CDボーナストラック

• - ああ、レディハリケーン（資生堂「レディバスボン」CMソング） 作詞：楳図かずお、作曲：近田春夫、編曲：矢野誠
• - 世界で一番いけない男 作詞：ちあき哲也、作曲：近田春夫、編曲：若草恵

なお、CD盤に収録されたボーナストラックの2曲は、アルバム発売後の1979年9月21日にシングルとしてリリースされたもので、当時のLPには未収録でした。

リリース情報

『天然の美』は、最初にLPレコードとして市場に登場しました。その後、時代を経てCD化され、1989年3月5日と1992年11月21日の二度にわたって再発売されています。これらのCD盤には、上述のボーナストラックが追加収録されています。

まとめ

本作は、近田春夫がバンドスタイルからソロアーティストへと移行する過渡期に制作された、非常に実験的かつ豪華な一枚です。自身は歌唱と作曲の一部に専念し、外部のトップクリエイターたちの手腕を借りることで、それまでのハルヲフォンとは一味違う、洗練されたポップスを展開しています。日本の音楽シーンにおける1970年代末期の空気を映し出しつつ、その後の近田の多岐にわたる音楽活動の原点とも言える重要な作品です。

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