ロキシーの夜

ロキシーの夜

『ロキシーの夜』は、1977年（昭和52年）8月21日に世に送り出された日本の音楽作品です。これは、ロックシンガーである近田春夫がソロ名義で最初に発表したシングルであり、同時に彼が率いるロックバンド、近田春夫&ハルヲフォン名義としては通算4作目にあたるシングルとしても位置づけられています。

作品概要

このシングルは、その発表形態に特徴がありました。レコードのA面は「近田春夫」単独名義、そしてB面は「近田春夫&ハルヲフォン」名義としてクレジットされるという、一枚のシングル盤の中で異なる名義が混在する変則的なリリース形式が取られました。

この作品は、もともと近田春夫&ハルヲフォンのフロントマンである近田春夫が、自身の「ソロデビューシングル」として企画・制作が進められました。特にA面を飾るタイトル曲「ロキシーの夜」の制作にあたっては、当時の音楽シーンで頭角を現していた優れた才能が招聘されています。作詞には、高田みづえのヒット曲『硝子坂』などで注目を集めていた島武実、そして作曲には、その頃まさに時代の寵児として数々のヒット曲を世に送り出していた筒美京平が迎えられました。

これは、当時の近田春夫が明確に志向していた音楽的なスタンスが反映されたものです。彼は、単なるロックアーティストとしてのみならず、「ロックの視点から歌謡曲を解釈し、表現する」というアプローチを試みており、本作はその具現化として企画されました。

B面曲「闇にジャックナイフ」とその背景

シングルのB面に収録された楽曲は「闇にジャックナイフ」です。この楽曲も、作詞は島武実、作曲は筒美京平、編曲は近田春夫が手掛けています。しかし、先に述べたように、このB面曲のみ名義が「近田春夫&ハルヲフォン」となっています。

この名義の差異、そしてB面のリードボーカルが近田ではなく、当時のハルヲフォンのドラマーであった恒田義見が担当していることには、興味深いいきさつがありました。

恒田義見は後に、自身の回想で当時の状況を詳細に語っています。恒田自身は、当初このシングルの演奏には直接は関わっていなかったとのことです。しかし、「闇にジャックナイフ」のレコーディングが進行していたある時、近田春夫から突然、六本木のスタジオに呼び出されたといいます。その際に近田は、この楽曲のキーがどうしても自身の声に合わず歌いにくい、つきっては代わりに歌ってくれないか、と恒田に依頼したのです。この出来事こそが、結果的にB面のみリードボーカルが恒田となり、名義もハルヲフォンを冠した「近田春夫&ハルヲフォン」となった背景にあるとされています。

恒田はさらに、この作品がハルヲフォン名義としては最後のレコードになったとも述べています（ただし、これ以降にハルヲフォン名義でカバーアルバムやシングルがリリースされているため、ここでいう「最後」は、オリジナル楽曲が収録されたシングルとしては最後、という意味合いであろうと考えられています）。

現在における聴取機会

発表当時、「ロキシーの夜」と「闇にジャックナイフ」の両楽曲は、近田春夫&ハルヲフォンのオリジナルアルバムには残念ながら収録されませんでした。しかし、後にハルヲフォンのアルバム『電撃的東京』が初めてCD化された際に、このシングル両面の楽曲がボーナストラックとして追加収録されることとなりました。

その後も『電撃的東京』は複数回にわたりCDとして再発売されていますが、いずれの再発盤にもこの2曲は引き続きボーナストラックとして収められています。このため、現在ではこれらの楽曲を比較的容易に聴くことが可能です。

このシングルは、近田春夫が追求したロックと歌謡曲の融合という音楽的な実験、そしてバンドメンバーとのユニークな関わり合いを示す、近田春夫のキャリアにおける重要な作品の一つと言えるでしょう。

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