天野正子

天野正子(1938-2015)は、日本の社会学研究に多大な貢献をした著名な学者です。お茶の水女子大学名誉教授、東京家政学院大学・大学院学長などを歴任し、ジェンダー社会学、歴史社会学、新しい社会運動論、そして現代生活者論を専門分野として、幅広い研究活動を行いました。

広島市出身の天野は、1961年にお茶の水女子大学文教育学部を卒業後、東京教育大学大学院文学研究科社会学専攻修士課程を修了。その後、南山短期大学、金城学院大学、千葉大学を経て、1995年に母校であるお茶の水女子大学文教育学部教授に就任しました。1999年には同大学大学院人間文化研究科教授となり、2003年に同大学を定年退官、名誉教授となりました。

大学での研究活動と並行して、天野は数々の要職を歴任しました。思想の科学研究会会長、日本ユネスコ国内委員会委員、独立行政法人国立女性教育会館運営委員会会長など、社会貢献活動にも積極的に携わっています。これらの活動を通して、日本の社会構造や政策形成に影響を与えたことは間違いありません。

研究面では、ジェンダー、歴史、社会運動、そして「生活者」という概念を軸にした現代生活者論に関する研究が特に注目に値します。特に「生活者」という概念は、日本の社会構造や文化を理解する上で重要なキーワードであり、天野は、その概念を英語に翻訳し、世界に発信することで、国際的な議論にも貢献しました。2001年に編著した『団塊世代・新論』では、海老坂武氏の唱えた「シングル論」を批判的に検討し、強者の論理にならないよう警鐘を鳴らしたことも特筆されます。

天野の学術的な功績は、数多くの著書に表れています。単著としては『第三期の女性 ライフサイクルと学習』、『転換期の女性と職業～共生社会への展望～』、『自立神話を超えて～女たちの性と生』、『「生活者」とはだれか～自律的市民像の系譜～』、『フェミニズムのイズムを超えて～女たちの時代経験～』、『老いの近代 日本の50年日本の200年』など、多岐にわたるテーマを扱った著作を発表しています。さらに、『「つきあい」の戦後史～サークル・ネットワークの拓く地平～』や、英語で書かれた『In Pursuit of the Seikatsusha: A Genealogy of the Autonomous Citizen in Japan』といった著書も残しています。

共著や編著も多数手がけており、その著作リストには、『モノと子どもの戦後史』、『「モノと女」の戦後史～身体性・家庭性・社会性を軸に～』、『男性史』、『戦後経験を生きる～近現代日本社会の歴史～』、『近代社会を生きる～近現代日本社会の歴史～』、『ジェンダーで学ぶ教育』、『団塊世代・新論』など、日本の社会構造や歴史を多角的に分析した作品が数多く含まれています。

天野正子は、単なる研究者としてだけでなく、教育者、社会活動家としても活躍し、日本の社会に大きな影響を与えました。その研究活動、社会活動、そして教育活動は、現代の日本社会を考える上で、欠かすことのできない重要な足跡として残っています。夫は東京大学名誉教授の教育社会学者である天野郁夫氏、長男は熊本県立大学准教授の政治学者である天野拓氏であり、学術一家としても知られています。

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