太乙真人

太乙真人（たいいつしんじん）は、中国の古典小説『封神演義』において重要な役割を担う仙人です。彼は、崑崙山に集う玉虚宮の門下で、特に高弟とされる「崑崙十二大師」の一人に数えられています。その居所は、乾元山の金光洞であり、この神秘的な仙洞の主として知られています。

太乙真人は強力な宝貝（パオペイ）、すなわち仙人が用いる特別な道具を所有しており、中でも「九竜神火罩（きゅうりゅうしんかしょう）」は彼の代表的な宝貝です。これは敵をその内部に閉じ込め、九匹の神竜が吐き出す猛烈な火炎で焼き尽くすという、非常に強力な攻撃能力を持っています。

彼の物語における最も顕著な功績の一つは、後に封神の戦いで大活躍する英傑、哪吒（なた）の師であることです。太乙真人は、仙界の最高位である玉虚宮の指示を受けて、霊珠子（れいしゅし）という宝玉に宿っていた仙胎を下界に送り出しました。この霊珠子が、陳塘関の総兵である李靖（りせい）の息子として転生し、哪吒となったのです。

哪吒が誕生した後、太乙真人は彼を弟子とし、厳格な修行を課しました。また、風火二輪や乾坤圏といった強力な宝貝を与え、彼の潜在能力を引き出しました。しかし、哪吒はその荒々しい気性から、わずか七歳にして東海龍王の息子を殺害するという事件を引き起こしてしまいます。この罪の償いとして、哪吒は自らの肉体を父母に返し、命を絶ちました。

愛弟子を失った太乙真人は、哪吒の魂に、母である殷夫人に頼んで自身のための行宮（霊廟）を建てるよう指示しました。そこで三年間の供養を受ければ復活できるはずでした。しかし、父である李靖が後々の災いを恐れ、その行宮を破壊してしまったため、計画は頓挫します。これに対し、太乙真人は諦めず、蓮の花弁や蓮の茎を用いて哪吒の新しい肉体を作り上げ、そこに彼の魂を宿らせることで、哪吒を「蓮華精（れんかせい）」として見事に蘇らせました。この出来事により、哪吒は肉体の制約から解放され、不死に近い存在となりました。

さらに太乙真人は、哪吒の戦闘能力を飛躍的に高めるため、彼が状況に応じて三つの顔と八本の腕を持つ「三面八臂（さんめんはっぴ）」の姿に変身できる術を与えました。これにより、哪吒は同時に多くの宝貝を操り、圧倒的な武力を発揮できるようになりました。

『封神演義』後半の仙道大戦においても、太乙真人は重要な局面でその力を発揮しました。特に、截教の仙人たちが西岐を攻めた際に敷いた「十絶陣（じゅうぜつじん）」の戦いでは、他の兄弟弟子たちと共に西岐へ赴き、姜子牙率いる周（しゅう）軍を援助しました。この際、太乙真人は孫天君（そんてんくん）が布いた毒性の強い「化血陣（かけつじん）」を破り、味方の窮地を救う活躍を見せています。また、仙道の命運をかけた最終決戦である「誅仙陣（ちゅうせんじん）」や「万仙陣（ばんせんじん）」といった大規模な戦いにも、崑崙十二大師の一員として参戦し、兄弟弟子たちと共に截教の仙人たちと激しい戦いを繰り広げました。

太乙真人は、強力な仙人としてだけでなく、哪吒を育て上げ封神の戦いに不可欠な存在とした師として、そして重要な局面で決定的な役割を果たした strategist としても、『封神演義』の物語に深く刻まれるキャラクターです。

関連項目：太乙

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