太宰治まなびの家

太宰治まなびの家：青春と苦悩の痕跡

青森県弘前市に位置する「太宰治まなびの家」は、文豪太宰治が旧制弘前高校在学中の3年間（1927年～1930年）を過ごした住宅として知られています。正確には、旧藤田家住宅という日本家屋で、太宰の実家である津島家とは親戚関係にあったそうです。現在は弘前市指定有形文化財として公開され、多くの文学愛好家や歴史ファンが訪れています。

この建物は木造二階建て、切妻屋根の造りで、1921年（大正10年）に建築されたことが棟札から判明しています。興味深いのは、建築資材は新しくなく、碇ヶ関村長宅を移築したものであるという点です。大正期の住宅建築は変革期にあり、居間と個室が設けられるようになり、この建物も当時の「中廊下型平面」の間取りを採用、廊下を挟んで居住区画と台所を配置するスタイルとなっています。こうした特徴から、大正期の建築様式を現代に伝える貴重な遺構と言えるでしょう。

太宰治の居室は2階の奥に位置し、縁側と出窓が付いた6畳間でした。この部屋で、彼は高校時代を過ごしただけでなく、義太夫の稽古にも励んだと伝えられています。隣室は藤田家長男の本太郎氏の部屋で、襖で仕切られていたようです。

この場所で、太宰治は1929年12月10日深夜、最初の自殺未遂に及んでいます。大量の睡眠剤を服用したこの事件は、彼の人生における大きな転換点となりました。当時付き合っていた小山初代との関係や、その他の要因が推測されていますが、真実は藪の中です。事件後、母親の津島夕子氏が見舞いに訪れ、大鰐温泉で静養したとも言われています。

現在公開されている建物は、元の場所から約100メートル南東に移築されたものです。しかし、太宰が使用していた机や茶箪笥などの調度品は現存しており、当時の様子を偲ぶことができます。さらに、隣室には藤田本太郎氏が撮影した太宰の写真なども展示されており、当時の生活を垣間見ることができます。

「太宰治まなびの家」周辺には、旧弘前偕行社（重要文化財）や旧制弘前高等学校外国人教師館（国登録有形文化財）など、太宰が過ごした時代の洋館が点在しています。これらの建造物と合わせて見学することで、当時の雰囲気をより深く味わうことができるでしょう。太宰治の人生や作品に関心のある方にとって、必見の場所と言えるでしょう。彼の苦悩と才能が交錯した時代の息吹が、今もこの建物に息づいているように感じられます。

この家は単なる住宅ではなく、太宰治という一人の人間の足跡、そして日本の近代文学史の一端を垣間見ることができる貴重な場所なのです。訪れる際には、彼の作品を事前に読んでおくと、より深い理解が得られるかもしれません。

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